2013年11月24日日曜日

NHK交響楽団 横浜定期演奏会 評

2013年11月24日 日曜日
横浜みなとみらいホール (神奈川県横浜市)

曲目:
アナトーリ=リャードフ 交響詩「魔法をかけられた湖」 op.62
ドミートリイ=ショスタコーヴィチ ヴァイオリン協奏曲第2番 op.129
(休憩)
ピョートル=イリイッチ=チャイコフスキー 交響曲第5番 op.64

ヴァイオリン:諏訪内晶子
管弦楽:NHK交響楽団
指揮:トゥガン=ソヒエフ

NHK交響楽団は、諏訪内晶子をソリストに、トゥガン=ソヒエフを指揮者に迎えて、2013年11月20日・21日に東京-サントリーホールで、第1768回定期演奏会を開催した。同じプログラムで11月23日に足利市民会館(栃木県)、24日に横浜みなとみらいホールで演奏会を行った。この評は、最終日11月24日横浜みなとみらいホールでの公演に対してのものである。

諏訪内晶子は1972年生まれの、言うまでもなく、少なくとも日本ではトップレベルのヴァイオリン奏者である。あまりに有名であり、説明の必要はなかろう。

指揮のトゥガン=ソヒエフは、当時のソヴィエト社会主義共和国連邦、北オセチア自治共和国生まれ。現在は、トゥールーズ-キャピトル国立管弦楽団、ベルリン-ドイツ交響楽団の首席指揮者である。

管弦楽配置は、舞台下手側から、第一ヴァイオリン→第二ヴァイオリン→(までは覚えていたが、チェロとヴィオラの配置は忘れた。多分、ヴァイオリン-チェロ→ヴィオラだったかと)のモダン配置で、コントラバスはチェロの後方につく。木管パートは後方中央、ホルンは後方下手側である。弦楽奏者は、第五プルトであっても雛壇を使わない。ロシア人指揮者ならではのやり方であろうか。

着席位置は正面中央上手側、観客の入りは八割五分程である。観客の鑑賞態度は良好であったが、私の隣席で曲の途中でパンフレットを弄んでいたのが気になった。

第一曲の「魔法をかけられた湖」、最初からとてもN響とは思えない精緻な音で、観客の心を掴む。表面の皮膚以外は、ベルリンフィルの奏者の組織を移植しているのではないかと思えてしまうほど、信じられない程の精緻さで、準=メルクルですらこのような音は引き出せていない。静寂な湖のほとりに一人で佇みながら、何かが起こりそうな不安をも感じさせるような、不思議な演奏である。

第二曲のショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第2番は、とても優れた演奏である。諏訪内晶子はリズムの刻みも、朗々と流れるような響きも、キッチリと演奏し、技巧的要素の強い現代曲が強い彼女ならではの完成度の高い演奏である。管弦楽の音に乗っかり、この曲に対してはとても適切な協調的なアプローチで寄り添いつつも、管弦楽を一歩上回る響きで伝わってくる。二重奏的な掛けあいはコントラバスともホルンとも決まりまくっているが、特にホルンとの二重奏は、ホルン-ソロの卓越した演奏とも相まって強い感銘を受ける。曲想上ソリストの自由は制限される性格が強い曲であるが、終了直前のカデンツァは唯一ソリストの自由度が高い部分であり、そこではテンポを自由に揺るがせるが自然なものであり、絶品である。

諏訪内晶子の新しいレパートリーの披露は成功裏に終える。管弦楽の精緻な響きはさらにパワーアップされ、プロコフィエルの「古典」交響曲を演奏しているかのような新古典主義を思わせるような響きとまでなり、さらにテンションを高める演奏である。

休憩後、第三曲目のチャイコフスキー第五交響曲は、盛り上がって当然の曲であるし、事実盛り上がっているし、ソヒエフも小技を利かしていて良い演奏ではあるが、まあ普通に良い演奏と言うところであろうか。私にとってはなんと言うか、何と無く中途半端な感じである。クラリネット・ファゴットの自己主張が私にとっては弱いし、最終楽章コーダでトランペットの音程が乱れたようにも思えたし、どこか白熱戦に今ひとつなりきれてなくて、一方で響きは前半ほどの精緻さが消えている。いつものN響に戻ったのであろうか。昨日のドイツェ-カンマーフィルハーモニー-ブレーメンの鮮烈な演奏を聴いたばかりであり、N響にとっては酷な環境ではあったのだろうけど。

と言う訳で、九か月振りに諏訪内晶子の演奏を聴けて、かつ諏訪内晶子とソヒエフの意図を緻密に表現しきったN響に感銘を受けた演奏会だったと、総括しておこう。