ラベル ピアノ_小菅優 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル ピアノ_小菅優 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2017年2月12日日曜日

Sato Shunsuke + Kosuge Yu + Lorenzo Coppola, recital, (12th February 2017), review 佐藤俊介 + 小菅優 + ロレンツォ=コッポラ トリオ 「20世紀の作品群」 松本公演 評

2017年2月12日 日曜日
Sunday 12th February 2017
松本市音楽文化ホール (長野県松本市)
The Harmony Hall (Matsumoto Municipal Concert Hall) (Matsumoto, Japan)

曲目:
Darius Milhaud: Suite per violino, clarinetto e pianoforte op.157b
Maurice Ravel: Sonata per violino e pianoforte
Alban Berg: Quattro pezzi per clarinetto e pianoforte op.5
(休憩)
Արամ Խաչատրյան / Арам Ильич Хачатурян / Aram Il'ich Khachaturian: Trio per clarinetto, violino e pianoforte
И́горь Фёдорович Страви́нский / Igor Stravinsky: ‘L'Histoire du soldat’ 「兵士の物語」

violino: 佐藤俊介Sato Shunsuke
pianoforte: 小菅優 Kosuge Yu
clarinetto: Lorenzo Coppola

佐藤俊介、小菅優、ロレンツォ=コッポラの三人によるトリオは、2017年2月10日から12日に掛けて、盛岡市民文化ホール(岩手県盛岡市)、彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール(埼玉県与野市)、松本市音楽文化ホール(長野県松本市)にて、リサイタル「20世紀の作品群」を計3公演開催した。プログラムは全て同一である。

この評は、千秋楽2017年2月12日松本市音楽文化ホールでの公演に対する評である。

着席位置は後方正面やや上手側、観客の入りは約5割である。メジャーな作曲家でなく、室内楽であり、松本市周辺の人口規模を考慮すると、これだけ集まっただけでも良しとするしかないか?観客の鑑賞態度は、概ね良好だった。

この演奏会の曲目は、ミヨー・ラヴェル・ベルク・ハチャトゥリアン・ストラヴィンスキーと、20世紀の曲目のみで構成されている。いずれも、第一次世界大戦前後に作曲されている。

クラリネットは、フランス式(技巧的な曲を吹きやすくした)とヴィーン式(弱音器をつけたような音を出せるようにした)の両方を用いた。ヴィーン式はベルクに対してのみ用いている。

総じて、挑戦的な曲目のどの曲も繊細に神経を通わし、ホールの響きを味方につけた素晴らしい演奏である。

名手が揃えば、完成度の高い演奏となるのは、当然と言えば当然と言えるが、それでもこの松本市音楽文化ホールは響くホール故に響かせ方が難しく、どのように観客に対して音圧を掛けるかは精密な計算が必要かと思われる。この難しいホールで、どの場面でも、弱音の綺麗さや強音の力強さ、明るい場面と暗い場面、いずれも場面でも完璧な響きで表現する。曲の構成も奇を衒わず、正統的なアプローチで攻める方向性である。

私の勝手な個人的な注目ポイントは、ラヴェルのヴァイオリン-ソナタで第一楽章終盤の、佐藤俊介が奏でたノンヴィブラートのヴァイオリンの響きだ。透明感のある、ピンと張り詰める響きの完璧さは、やはりテンションが上がる。

アンコールは、第一曲目である、ミヨーの「ヴァイオリン、クラリネットとピアノのための組曲」作品157bより 第4曲〈序奏と終曲〉の終曲部であった。

2014年9月13日土曜日

小菅優 ピアノ-リサイタル 評

2014年9月13日 土曜日
彩の国さいたま芸術劇場 (埼玉県与野市)

曲目:
ヨハン=セバスティアン=バッハ:「イタリア風のアリアと変奏」 BWV989
ルートヴィッヒ=ファン=ベートーフェン:ピアノ-ソナタ第21番 op.53 「ヴァルトシュタイン」
(休憩)
武満徹:「雨の樹素描」
武満徹:「雨の樹素描II」 -オリヴィエ・メシアンの追憶に-
リスト=フェレンツ:「巡礼の年 第3年」より「エステ荘の噴水」
リスト=フェレンツ:バラード第2番
リヒャルト=ヴァーグナー(リスト=フェレンツ編曲):「イゾルデの愛の死」

ピアノ:小菅優

着席位置は、一階中央上手側である。客の入りは8割強であろうか。当日券が売り出していたので、完売までには至らなかった模様だ。聴衆の鑑賞態度は概ね良好ではあるが、弱奏部でノイズが感じられたのも事実である。

前半と後半とで印象が違う展開で、前半部は冒険的、後半部は盤石な内容である。

前半は、ベートーフェンの「ヴァルトシュタイン」が面白い。

か弱い女の子のレッスン風景のような弱いタッチで始めながら、いつの間にかアッチェレラントを掛けて最強奏になったり、繊細に奏でていると思わせておいてパッションを激しく出した演奏を繰り広げたり、変幻自在な演奏である。

刹那的と言えば刹那的であるが、次をどのように攻めてくるか予測不能で、とてもスリリングな展開を仕掛けてくる。どこか女性が演奏している事を忘れさせない演奏で、誰もが作り出していない展開に小菅優の個性がほとばしっている点も注目させられる、とても素晴らしい演奏であり、小菅優の冒険は見事に成功している。

一方後半の最後は、リストが二曲、ヴァーグナー作曲リスト編曲が一曲と、リストが絡んだ曲で占められている。

このようなリストが関わる曲と小菅優との相性は、抜群に素晴らしい。彼女の強奏部にまで行き渡った繊細さが見事に生きている。

前半の「ヴァルトシュタイン」では、ベートーフェンが構築した曲を一度解体して、小菅優によって再構築された性格を感じるが、後半のリスト絡みの曲は、あたかもリスト=フェレンツと小菅優とが同一人物であると感じるかのように思える演奏だ。

アンコールは、ショパンの「24の前奏曲」より、11番と15番であった。

2013年7月6日土曜日

第87回 水戸室内管弦楽団 定期演奏会 演奏会評

2013年7月6日 土曜日
水戸芸術館 (茨城県水戸市)

曲目:
細川俊夫 室内オーケストラのための「開花II」
ルートヴィッヒ=ファン=ベートーフェン ピアノ協奏曲第3番 op.37
(休憩)
フランツ=シューベルト 交響曲第8(9)番「大交響曲」 D944

ピアノ:小菅優
管弦楽:水戸室内管弦楽団(MCO)
指揮:準=メルクル

MCOは、準=メルクルを指揮者に迎えて、2013年7月6日・7日に水戸で、8日に東京で、第87回定期演奏会を開催した。この評は、第一日目の公演に対してのものである。

管弦楽配置は、舞台下手側から、第一ヴァイオリン→第二ヴァイオリン→ヴァイオリン-チェロ→ヴィオラのモダン配置で、コントラバスはチェロの後方につく。木管パートは後方中央、ホルンは後方上手側、その他の金管・ティンパニは後方下手側の位置につく。

着席位置は正面前方中央、客の入りはほぼ満員である。

演奏会場に入ると、いつもよりも舞台上の照明が暗い。プログラムには紙片が挟まっており、プログラム本編に先立ってモーツァルトのディヴェルティメントK.136(125a)から第二楽章を演奏する事が予告されている。この5月に亡くなられた楽団員で、コンサートミストレスの役割を果たすことも多かった潮田益子に対する追悼演奏である。

定刻となり、最小限の照明の下で楽団員のみが入場し、その後演奏に支障がない程度に抑えた照度となる。安芸晶子をコンサートミストレスとしての演奏だ。最初の一音を聴くだけで、改めてMCOの技量の高さを認識させられる。一音一音がとても綺麗で、淀みが全くなく清冽な演奏だ。演奏終了直前に照明が落とされ、最小限の照明の下で楽団員が去る。演奏前後に拍手をする者はない。追悼演奏が終わる。

照明が通常の明るさとなり、プログラム本編となる。水戸芸術館での慣習のとおり、楽団員登場の場面から盛大な拍手で迎える。

第一曲目は細川俊夫の「開花II」であり、日本初演だ。コンサートマスターは、久しぶりにMCOに登場した川崎洋介である。作曲者臨席の下での演奏だ。冒頭部からの、蓮の花がゆっくりと開花していく情景であろうか、限りなく無音に近い音からの長いクレッシェンドに、その完璧なまでの美しい響きに魅了される。弱音部でのニュアンスが特に冴えわたり、極めて精緻な演奏だ。目隠ししてこの音楽を聴くと、ヴァイオリンやフルートを用いた音色とは決して思えない。西洋の楽器でこれほどまでに仏教的、東洋的な音が出せるのかと、驚嘆につぐ驚嘆に満ちた演奏である。

二曲目はベートーフェンのピアノ協奏曲第3番、コンサートミストレスは渡辺實和子である。正直なところ、ベートーフェンの場合小菅の個性が発揮されるところは相対的に少ないようにも思えるが、それでも小菅の危うさを秘める繊細さが随所に出てくる演奏だ。カデンツァでのテンポの揺らぎ、第二楽章での繊細な演奏が小菅らしいところである。第三楽章ではちょっと遊び心も出たかな、と思えるのは気のせいであろうか。

休憩後の三曲目は、シューベルトの「大交響曲」だ。コンサートマスターは豊嶋泰嗣である。端正なスタイルを保持するのが通例のメルクルとしては、態度がいつもと違う。第一楽章からかなり速めなテンポであり、これはどんなものかと一瞬疑問に感じるが、スタッカートをどちらかというと重視しており、その躍動感が強い説得力を持つ。やや弦楽重視であるが管楽を要所要所で際立たせている。下手側に位置しているトランペットとトロンボーンが、繊細さを伴いつつも的確な自己主張を行っていて素晴らしい。ホルン・オーボエは敢えて抑えられていたのだろうか?第二楽章では、メルクルが指示したと思われるニュアンスが実に効果的である。

「開花II」で見せた演奏から正反対の方向性で、メルクルは鬼と化す。最終楽章で、あれだけスピードが速めでありながら、体全体を用いたボーイングで、弦楽の音の細かく強く刻むよう要求する。近年のMCO演奏会では見られなかった、なりふり構わない凄惨な白兵戦と化す。それでもMCOは驚異的なまでに的確にスタッカートを実現する。ただただ圧巻である。

終演後、心地良い疲労感に満ちた表情を弦楽セクションの人たちがしている。限界を極めた達成感に満ちた表情だ。今回の演奏会は、追悼演奏から始まり、一曲目から重量級の曲目で構成されていた。もうこれ以上の演奏は不可能であることは、誰の目にも明らかだ。アンコールはなし。極めて充実した内容の演奏会であった。