2018年9月30日日曜日

Opernhaus Zürich ‘Macbeth’ (チューリッヒ歌劇場「マクベス」)感想

全般的に、歌い手に全く穴がなく、主役級だけでない誰もが管弦楽を一歩抜きん出る声量と技量を持ち、管弦楽も冴えまくり、完璧な「マクベス」であった。世界中のどの「一流」歌劇場でも、これほどまでのレベルの「マクベス」は不可能であろう。

マクベス夫妻役が完全に狂っていた。

Lady Macbeth: Tatiana Serjan
このマクベス夫人役が、私にとってはベストだ。圧倒的な声量というだけではない。もうニュアンスとかコントロールとかいう技量など、どうでも良かった。ただただ狂っていた。完全に狂っていた。真の主役は彼女だ!こんな狂ったマクベス夫人が、世界中のどこの歌劇場にいるのだろう。
もう、私のニヤニヤ笑いが止まらない。

Macbeth: Markus Brück
マクベス夫人に狂わされた題名役を傑出したレベルで演じた。彼も完全に狂っていた。

演出は Barrie Kosky 完璧であった。合唱団が反乱の箇所で初めて顔を出したり、舞台袖から管楽を鳴らして絶妙な遠近感を出したり(この管弦楽が、綺麗な弱奏で見事に表現する)する。豆電球のみで舞台空間を区切ったり、奥舞台を十全に用いた点も傑出している。

まさに、音楽面・演出面共に最高の「マクベス」!

私は粗筋の把握以外の何らの予習をせずに、この公演に望んだ。もうこの公演で封印していいだろう。これ以上の出来は、もう望めない。

【以下、劇場発表のキャスト等】

Macbeth

Opera in four acts by Giuseppe Verdi (1813-1901)
Libretto by Francesco Maria Piave with amendments by Andrea Maffei after «The Tragedy of Macbeth» by William Shakespeare

Musical director: Francesco Lanzillotta
Producer: Barrie Kosky
Stage and lighting designer: Klaus Grünberg
Assistant set designer: Anne Kuhn
Costumes: Klaus Bruns
Choir director: Christian Günther
Dramaturgy: Claus Spahn

Macbeth: Markus Brück
Banco: Wenwei Zhang
Lady Macbeth: Tatiana Serjan
Kammerfrau der Lady Macbeth: Justyna Bluj
Macduff: David Junghoon Kim
Malcolm: Leonardo Sanchez
Arzt: Wojciech Rasiak
Diener Macbeths, Mörder Richard Walshe
Philharmonia Zürich
Chor der Oper Zürich
Statistenverein am Opernhaus Zürich

2018年9月2日日曜日

サイトウ キネン フェスティバル「オーケストラ コンサート Cプログラム」 2018年9月2日 演奏会 感想

サイトウ キネン フェスティバル も今年最後の演奏会。正式には9月7日までの日程でありますが、後は教育プログラムのみです。

今日は「オーケストラ コンサート Cプログラム」。私の嫌いな長野県松本文化会館が会場です。デカ過ぎて、死んだような響きのホールで、サイトウキネンのオケでなければ、まず行きません。

前半は、「音文が恋しい」気持ちでいっぱいです。まだマシな響きになる二階席、tutti 全力前進演奏でないと、音圧が掛からないし、聴衆の心に響きません。

しかし、指揮が出来なくなった(どころか、腰椎圧迫骨折により、今年は松本にすらいない)小澤征爾の降板を受け、「「セイジのために」と急遽来日を快諾」(サイトウ キネン フェスティバル ウェブページ)し、特別出演された Marcus Roberts Trio が、この演奏会の印象を一変させました。

Marcus Roberts Trio の凄い点は、そんな最悪のホールなど物ともせずに、聴衆の心を掴み取るところにあります。

あれだけ振幅が少ないピアノがどうして私の心を惹きつけるのか、理由は全く分からないが、これが事実です。

弱音の綺麗さや、基本的な技量の高さの点では、サイトウ キネン オーケストラの管弦楽も実現されていました。

しかし、観客に与える印象は、圧倒的に Marcus Roberts Trio が勝っております。

後半の Marcus Roberts Trio 単独での演奏、’Tonight’ は文句なしの白眉で、なぜか知りませんが、いつの間にか私の心を興奮させます。’Somewhere’ では弱音の美しさが光りました。

最後の曲目は ‘I Got Rhythm’ です。Marcus Roberts Trio がソリストになった協奏曲の形態となりましたが、Trio のコントラバス奏者、Rodney Jordan のソロは圧巻で、あの弱音の場面で、驚異的な聴衆の集中力を引き出しました。

Marcus Roberts Trio 、音量の振幅はクラシック音楽の比にならないほど小さいのに、どうして名手揃いの最強メンバーで構成されたサイトウキネンオケが足元にも及ばない何かを聴衆にもたらすのでしょう?

霊感でしょうか?

でも、何でも霊感で済ませるのもアレなので、強いて言及するとなると、「引き算の極み」によるものと思います。これ見よがしな余計な作為を排除しつつ、霊感を呼び寄せる。今日は Santa Cecilia が松本で微笑んでくれたのかもしれません。

彼らを招待した小澤征爾総監督に、感謝の演奏会でした。