2015年5月23日土曜日

Nagoya Philharmonic Orchestra, the 424th Subscription Concert, review 第424回 名古屋フィルハーモニー交響楽団 定期演奏会 評

2015年5月23日 土曜日
Saturday 23nd May 2015
愛知県芸術劇場コンサートホール (愛知県名古屋市)
Aichi Prefectural Art Theater Concert Hall (Nagoya, Japan)

曲目:
Felix Mendelssohn Bartholdy: Ouverture da concerto in re maggiore per orchestra “Calma di mare e viaggio felice” op.27(演奏会用序曲:静かな海と
楽しい航海)
Gondai Atsuhiko (権代敦彦): Berceuse(子守歌)
(休憩)
Robert Alexander Schumann: Sinfonia n. 3

mezzo soprano: Fujii Miyuki (藤井美雪)
pianoforte: Noda Kiyotaka (野田清隆)
Coro dei bambini: Nagoya Children's Choir (児童合唱:名古屋少年少女合唱団)
orchestra: Nagoya Philharmonic Orchestra(名古屋フィルハーモニー交響楽団)
direttore: Kawase Kentaro(川瀬賢太郎)

名古屋フィルハーモニー交響楽団は、2015年5月23日・24日に愛知県芸術劇場で、第424回定期演奏会を開催した。この評は、第二日目の公演に対してのものである。

管弦楽配置は、舞台下手側から、第一ヴァイオリン→第二ヴァイオリン→ヴァイオリン-チェロ→ヴィオラのモダン配置で、コントラバスはチェロの後方につく。管打楽はホルンを含めて後方中央の位置に着く。

着席位置は一階正面上手側後方、客の入りは9割程であろうか、チケット完売には至らなかった。観客の鑑賞態度は、極めて良好で権代敦彦の「子守歌」の後での静寂も完璧に守られた。

二曲目の、権代敦彦作の「子守歌」は、誰が上手だとか、そう言う次元で分析する曲ではない。強いて言えば、児童合唱が効いたのか。管弦楽が奏でる旋律に乗る箇所はあったのだろうか?管弦楽の助けが得られない故に、高度な自律性を要し、バラバラに声を発する箇所もあり、明らかに難曲だったが、名古屋少年少女合唱団は見事に表現した。この曲は合唱の役割が大きいが、十二分に果たしている。

もちろん児童合唱だけでなく、全ての出演者が高い士気をもって演奏する。ソリスト・合唱・管弦楽が三位一体となって、噛み合っている。

安直な表現ではあるが、涙腺が決壊しそうになる表現で、演奏中「子守歌」の題名は全く意識しなかった。単に娘を学校で殺された一つの悲劇だけではない、どこか普遍性を帯びる性格を有している。これをどう言語化する術はないが、誰かの親で無ければ、入り込めない世界では、決してなかった。

繊細に響きをコントロールさせて演奏が終わった後の静寂も守られたのは幸せな事であった。指揮者の合図があるまで反応を示さない、当たり前な事が、どれだけ素晴らしい結末を迎えるのか、改めて実感する。

現代音楽かつ暗いテーマのこの曲を取り上げるのは、興行面では冒険だったとは思うが、この曲を演奏したこと自体が快挙であり、このような高い水準での演奏を実現した事が驚異である。この「子守歌」を取り上げた名フィルの企画力に感謝の言葉しかない。

後半は、シューマンの交響曲第3番、グスタフ=マーラーの編曲によるものとのことだ。全般的に各楽章とも、小さく始まり、大きくパッションを伴いながら終わる形である。響きは管楽優位に感じられた。

2015年5月17日日曜日

Mahler Chamber Orchestra, Leif Ove Andsnes, Tokyo performance (17th May 2015), review マーラー室内管弦楽団+レイフ=オヴェ=アンスネス 東京公演(2015年5月17日) 評

2015年5月17日 日曜日
Sunday 17th May 2015
東京オペラシティ タケミツメモリアル (東京)
Tokyo Opera City Concert Hall: Takemitsu Memorial (Tokyo, Japan)

曲目:
Ludwig van Beethoven: Concerto per pianoforte e orchestra n.1 op.15
(休憩)
Ludwig van Beethoven: Concerto per pianoforte e orchestra n.5 op.73

pianoforte: Leif Ove Andsnes (レイフ=オヴェ=アンスネス)
orchestra: Mahler Chamber Orchestra(マーラー室内管弦楽団)
direttore: Leif Ove Andsnes (レイフ=オヴェ=アンスネス)

マーラー室内管弦楽団は、2015年5月3日から17日までアジアツアーを行い、香港・台北・台南(中華民国)・上海・高陽(ソウル近郊)・静岡・東京にて計9公演の演奏会を開催する。全ての公演のピアノ独奏・指揮はレイフ=オヴェ=アンスネスである。

レイフ=オヴェ=アンスネスのピアノは、正面にピアノを舞台後方に向けて置かれ、蓋は取り外されている。

管弦楽配置は、舞台下手側から、第一ヴァイオリン→ヴァイオリン-チェロ→ヴィオラ→第二ヴァイオリンの左右対向配置で、コントラバスはチェロの後方につく、木管パートは後方中央、ホルンは後方下手側、その他の金管・ティンパニは後方上手側位置につく。ティンパニは小さく鋭い音のするタイプである。

着席位置は一階正面中央やや上手側、客席の入りは九割程の入りで、一階後方上手側に空席が目立った。観客の鑑賞態度は、概ね良好であった。

前半はピアノ協奏曲第1番。第三楽章が面白い。また、木管が素晴らしい技量で盛り上げていた。

後半はピアノ協奏曲第5番。かなりピアノ優位の構成でテンポの変動を大きくつけている。管弦楽は控えめな表現であるが、弱音が綺麗である。変わり者のあきらにゃん のムフフポイントは、第三楽章で、下手側ホルン→上手側金管→その両方が合わさって絶妙なブレンドが得られた箇所と、その後で同じように精緻に弦楽が音を合わせてブレンドさせた箇所である。

アンコールは全てBeethovenの作品で、一般参賀の後に一曲加わり、計三曲となった。

一曲目は、ピアノ-ソナタ第18番第三楽章。二曲目は「12のドイツ舞曲」で、ここでも管弦楽の絶妙にブレンドされた弦楽の音色が聴けた。アンスネスはなんとタンバリンを叩いたが、素晴らしい出来だ。ここで客電もついて管弦楽が引き揚げたが、鳴り止まない拍手に応え、アンスネスのソロでバガテルを演奏し、演奏会を終了した。

15・17日の二回の演奏会によりBeethovenピアノ協奏曲全曲演奏会を構成したが、曲レベルで一番素晴らしかったのは第3番、楽章レベルでは第4番第二楽章であった。

チクルスものは、無謀な日程が組まれ、高い水準の演奏を構築出来ないまま演奏会に臨まざるを得ない事例もあるが、今回に関しては、そのような負の要素が避けられた。

今回のチクルスは、全般的に水準の高い演奏であったが、その成功の要因は以下の6つに集約されるだろう。

1. アンスネスのピアノ技量の確実さ
2. アンスネスの驚異的な体力
3. MCOの世界トップレベルの技量・自発性
4. 二回の演奏会で収まる内容であったこと
5. タケミツメモリアルの音響の素晴らしさ。特に第4番第二楽章では、この残響の美しさが効いた。
6. 既に何回も演奏されている内容であり、高水準の演奏が完成されており、アップデートでさらに水準を上げるのみの状態であったこと。

成功は始めから約束されていた。企画段階での吟味がいかに大切かを、改めて認識した、Beethovenピアノ協奏曲チクルスであった。

2015年5月16日土曜日

Miyazaki International Music Festival Orchestra, Pinchas Zukerman, Amanda Forsyth, the 20th Miyazaki International Music Festival Concert (16th May 2015), review 宮崎国際音楽祭管弦楽団 ピンカス=ズッカーマン アマンダ=フォーサイス 第20回宮崎国際音楽祭 演奏会4 評

2015年5月16日 土曜日
Saturday 16th May 2015
宮崎県立芸術劇場 (宮崎県宮崎市)
Miyazaki Prefectural Arts Center (Miyazaki, Japan)

曲目:
Пётр Ильич Чайковский / Pyotr Ilyich Tchaikovsky: Mélodie (Souvenir d'un lieu cher op.42) (チャイコフスキー:メロディー 「懐かしい土地の想い出)より)
Пётр Ильич Чайковский / Pyotr Ilyich Tchaikovsky: Andante cantabile (Quartetto per archi n.1 op.11) (チャイコフスキー:アンダンテ-カンタービレ 弦楽四重奏曲第1番より)
Пётр Ильич Чайковский / Pyotr Ilyich Tchaikovsky: Notturno (6 pezzi op.19) (チャイコフスキー:夜想曲 「6つの小品」より)
(休憩)
Пётр Ильич Чайковский / Pyotr Ilyich Tchaikovsky: Sinfonia n.5 op.64 (チャイコフスキー:交響曲第5番)

violino: צוקרמן‎ פנחס / Pinchas Zukerman (ヴァイオリン:ピンカス=ズッカーマン)
violoncello: Amanda Forsyth(ヴァイオリン-チェロ:アマンダ=フォーサイス)
orchestra: Miyazaki International Music Festival Orchestra(宮崎国際音楽祭管弦楽団)
direttore: צוקרמן‎ פנחס / Pinchas Zukerman (指揮:ピンカス=ズッカーマン)

第20回宮崎国際音楽祭は、2015年4月29日から5月17日まで開催され、5つのメインプログラムとその他の演奏会により構成されている。この評の演奏会は、2015年5月16日に開催された「メインプログラム4」である。ヴァイオリン・指揮は、ここ最近恒例のピンカス=ズッカーマンが担当する。

管弦楽配置は、舞台下手側から、第一ヴァイオリン→第二ヴァイオリン→ヴァイオリン-チェロ→ヴィオラのモダン配置で、コントラバスはチェロの後方につく。木管パート・ホルンは正面後方、ホルン以外の金管パートは後方上手側、ティンパニは後方正面わずかに下手側の位置につく。

前半はチャイコフスキーの小品集、メロディはズッカーマンのソロ、アンダンテ-カンタービレと夜想曲はフォーサイスのソロだ。どの曲も、ソリストだけでなく、管弦楽全体で弱音を繊細に響かせる。ズッカーマン・フォーサイス夫妻のソリストはもちろんの事、バックの管弦楽が非常によく考えている演奏だ。

後半はチャイコフスキーの第五交響曲。弦楽があまりにも素晴らし過ぎる。この宮崎で産み出された独特の音色で豊かなニュアンスを付けてうねらせつつ、パッションを込めて精緻さも保って圧倒していく、最も理想的な響きの形態を実現させる。ズッカーマンは音色を重視し、どのような音色を見つけ出すのか、弦楽奏者に発見させるべく追い込んだのだろうか?経験が浅い若手奏者もいる臨時編成の弦楽とは思えない徹底ぶりと精緻さは驚異である。やはり音色だ。第二楽章後半部では感極まりそうになるほどである。

チャイ5は、暴論承知で言えば、やはり弦楽が全てである。弦楽さえしっかりしていれば、管にアラがあったとしても成立する。臨時構成のオケであるが、弦楽は若手奏者に至るまで何をしたいのかが極めて明確だった。歴史ある管弦楽団でもあの音色は出せないだろう。あるいは、逆に歴史がない臨時編成のオケだからこそ出せたのだろうか。

アンコールは、ブラームスの「五つのリート」より「子守歌」を、ズッカーマンがヴァイオリン奏者から楽器を借りてソロで演奏し、サヨナラと言って演奏会を閉じた。

2015年5月15日金曜日

Mahler Chamber Orchestra, Leif Ove Andsnes, Tokyo performance (15th May 2015), review マーラー室内管弦楽団+レイフ=オヴェ=アンスネス 東京公演(2015年5月15日) 評

2015年5月15日 金曜日
Friday 15th May 2015
東京オペラシティ タケミツメモリアル (東京)
Tokyo Opera City Concert Hall: Takemitsu Memorial (Tokyo, Japan)

曲目:
Ludwig van Beethoven: Concerto per pianoforte e orchestra n.2 op.19
Ludwig van Beethoven: Concerto per pianoforte e orchestra n.3 op.37
(休憩)
Ludwig van Beethoven: Concerto per pianoforte e orchestra n.4 op.58

pianoforte: Leif Ove Andsnes (レイフ=オヴェ=アンスネス)
orchestra: Mahler Chamber Orchestra(マーラー室内管弦楽団)
direttore: Leif Ove Andsnes (レイフ=オヴェ=アンスネス)

マーラー室内管弦楽団は、2015年5月3日から17日までアジアツアーを行い、香港・台北・台南(中華民国)・上海・高陽(ソウル近郊)・静岡・東京にて計9公演の演奏会を開催する。全ての公演のピアノ独奏・指揮はレイフ=オヴェ=アンスネスである。

管弦楽配置は、舞台下手側から、第一ヴァイオリン→ヴァイオリン-チェロ→ヴィオラ→第二ヴァイオリンの左右対向配置で、コントラバスはチェロの後方につく、木管パートは後方中央、ホルンは後方下手側、その他の金管・ティンパニは後方上手側位置につく。ティンパニは小さく鋭い音のするタイプである。

着席位置は一階正面中央やや上手側、客席の入りは九割ほど、一階席後部に空席が目立った。観客の鑑賞態度は、概ね極めて良好であったが、第四番終了時にフライング-ブラヴォーがあった。

前半はピアノ協奏曲第2・3番。アンスネスのピアノは、繊細でニュアンスに富んでいて、響きも綺麗で最高の出来だ。マーラー室内管も素晴らしい。どこでどのように演奏するべきか、全員が心得ている。全ての響きがこうあるべき所にバシッと決まる。

変わり者の あきらにゃん のムフフポイントは、第2番第三楽章の、ヴィオラ→第二Vn→第一Vn→ピアノと繋げる所♪随所でそう言った繋ぎの上手さを感じたなあ。第3番終盤のティンパニの鋭い響きも良いアクセントだった。あそこだけだから効果的に決まったかな♪

後半は、ピアノ協奏曲第4番。誰がなんと言おうと、白眉は第二楽章である!繊細なアンスネスのピアノと、そのピアノを圧倒しようとする弦楽、しかしその弦楽も精緻で、ピアノもなぜかよく通る響きなのだ。その不思議な聖チェチーリアに祝福された空間よ!

変わり者の あきらにゃん的ムフフポイントは、第一楽章序盤の、弦楽セクションが出した、ニュアンスとパッション溢れる最高音であります。全員が名手だから、あのような響きが出せるのだな。

全般的には、前半(2・3番)の方が良い出来だった。特に3番は、繊細さ・ニュアンス共に抜群に活きていた。

日曜日(17日)は1番と5番を聴きに行きます。

2015年5月4日月曜日

Tokyo Philharmonic Orchestra, Cheong Myeonghun, Karuizawa Ohga Hall the 10th Anniversary Concert (4th May 2015), review 東京フィルハーモニー交響楽団 軽井沢大賀ホール開館10周年記念演奏会 評

2015年5月4日 月曜日
Monday 4th May 2015
軽井沢大賀ホール (長野県北佐久郡軽井沢町)
Karuizawa Ohga Hall (Karuizawa, Nagano prefecture, Japan)

曲目:
Wolfgang Amadeus Mozart: Concerto per pianoforte e orchestra n.23 K488
(休憩)
Ludwig van Beethoven: Sinfonia n.7 op.92

pianoforte: 鄭明勳(Cheong Myeonghun/チョン=ミョンフン)
orchestra: Tokyo Philharmonic Orchestra(東京フィルハーモニー交響楽団)
direttore: 鄭明勳(Cheong Myeonghun/チョン=ミョンフン)

東京フィルハーモニー交響楽団は、2015年5月4日に軽井沢大賀ホールで、軽井沢大賀ホール開館10周年記念演奏会を開催した。指揮・ピアノは、鄭明勳(チョン=ミョンフン)である。このプログラムでの演奏会は、「ラ-フォル-ジュルネ金沢」にも持ち込まれ、2015年5月5日に石川県立音楽堂でも演奏される。

着席位置は一階正面後方中央、チケットは完売している。観客の鑑賞態度は、概ね良好であった。

冒頭からアンコールがあり、モーツァルトの「キラキラ星変奏曲」をミョンフンのピアノソロであった。

モーツァルトのピアノ協奏曲23番では、ピアノを上手側後方に斜めに向け、ピアノの蓋は取らずに通常のまま開いた形態である。その周りに半円状に、第一ヴァイオリン→第二ヴァイオリン→ヴァイオリン-チェロ→ヴィオラ→管楽器と囲んでいる。コントラバスは、下手側後方に位置する。

今日はピアノ・管弦楽とも端正に響き、生々しさを感じさせず、綺麗に響いている。デッドな響きの感覚がしないのは、不思議だ。モーツァルトの曲想を活かし、古典派ならではの興奮度を意図した演奏ではあるが、第一楽章で演奏し直しのアクシデントがあった。原因は不明である。その箇所は、長い文脈を経て最高音に達する途中の白眉の箇所であり、ぶつ切り状態となってしまったのは残念である。管楽は、やや大管弦楽のノリっぽい。第三楽章後半部はパッションが込められ、素晴らしい出来である。

ソリストアンコールがここで二曲あり、シューマンの「アラベスク」とBeethoven の「エリーゼのために」である。「エリーゼのために」は大賀緑さんへのラブレターとして捧げられたが、今日のピアノ-ソロの中では一番いい出来である。

Beethovenの第7交響曲の管弦楽配置は、舞台下手側から、第一ヴァイオリン→第二ヴァイオリン→ヴァイオリン-チェロ→ヴィオラのモダン配置で、コントラバスは最上手側を占める。木管・金管パートは後方、ティンパニは後方上手側にズラした位置につく。

第二〜第四楽章まで、私の好みそのまま!きっちり計算され尽くされて、興奮に導かれた感じである。中程度に効かせたテンポの変動の巧みさ、長いフェルマータ、金管のソロの強調などが特徴となるか。緊張感を失わない第二楽章、第三楽章ではA-B-AのAの部分を速く快活にし、Bの部分をかなり遅くしじっくり聴かせる対比が面白い。弦管打きちっと噛み合い、全体的な構成もしっかりしている。終了間近の追い込みの箇所も、見事に実現した。

今日の東フィルは、本当に響きが綺麗である。軽井沢大賀ホールを一番美しく響かせる演奏だ。明日5月5日に、金沢市にある石川県立音楽堂でもBeethovenの7番が演奏される。期待して欲しい!