2017年6月4日日曜日

Gustav Mahler Ensemble, Matsumoto Concert (2017), review グスタフ=マーラー-アンサンブル 松本公演 評

2017年6月4日 日曜日
Sunday 4th June 2017
松本市音楽文化ホール (長野県松本市)
The Harmony Hall (Matsumoto Municipal Concert Hall) (Matsumoto, Japan)

曲目:
Johann Sebastian Bach: Passione secondo Matteo BWV 244
ハイドン:弦楽四重奏曲 変ロ長調「日の出」作品76-4
J.シュトラウスⅡ:ジーフェリングのリラの花 〜喜歌劇『踊り子ファニー・エルスラー』より 
J.シュトラウスⅡ:ポルカ・シュネル「浮気心」op.319 
S.メルカダンテ フルート協奏曲 op.57 第三楽章
R.シュトルツ:ウィーンは夜が一番美しい 〜喜歌劇『春のパレード』より
(休憩)
W.A.モーツァルト:弦楽四重奏曲 第17番 変ロ長調 K.458「狩」
J.シュトラウスⅠ:ギャロップ「ため息」op.9
P.A. ジュナン 「ヴェニスの謝肉祭」 フルートと弦楽による
F.レハール:私の唇に熱き口づけを 〜喜歌劇『ジュディッタ』より

soprano: Monika Mosser / モニカ=モッシャー
violino 1: Alexander Burggasser / アレクサンダー=バーギャセル
violino 2: 大竹貴子 / Otake Takako
viola: Peter Sagaischek / ペーター=ザガイシェク
violoncello: Nikolaus Straka / ニコラス=ストラーカー
flauto: Matthias Schulz / マティアス=シュルツ

グスタフ=マーラー-アンサンブルは、2017年6月3日から5日までにかけて、日本ツアーを実施し、各務原(岐阜県)・松本・名古屋にて演奏会を開催する。この評は、第二公演2017年6月4日、松本市音楽文化ホールでの公演に対するものである。

メンバーは、ヴィーン交響楽団のコンサートマスターの他、ヴィーンフィル・フォルクスオーパー等の奏者などによって構成されている。大竹貴子は、名古屋近郊の出身でスズキメソードの教育を受けた後、現在、兵庫県立芸術文化センター管弦楽団のアフェリエイト-プレイヤーである。

着席位置は一階正面後方やや上手側、観客の入りは半分弱。観客の鑑賞態度は、概ね良好であった。

全般的に、前半は、弦楽・管楽・ソプラノとの響きのバラバラ感があったが、後半は完成度の高い演奏を見せた。

モーツァルトの「狩」は、松本市音楽文化ホールの響きを活かした演奏で、端正な方向性を志向した演奏だ。管弦楽団の奏者を本職にしていて、かつアウェイの難しい響きのホールでの演奏を考えれば、素晴らしい演奏である。完成度の高い演奏を目指し、安全運転気味な要素はあったけど、と思うのは贅沢か?

「ヴェニスの謝肉祭」は、フルートの超絶技巧が活き、また弦楽の深みのある響きが出た点でも、この演奏会の白眉である。

「私の唇に熱き口づけを」では、ソプラノとフルート・弦楽のバランスがキチッと取られている。この松本市音楽文化ホールは、音量面では楽勝なホールであるが、美しく響かせるコントロールは難しい。この曲では、ソプラノの響きのコントロールが最も良く取られていた。ダンスも交えていて、もちろんバレエダンサーのような技巧を駆使したものではないけれど、明らかに何らかの舞踊教育を受けた事が分かるダンスであった。

アンコールは、ジーツェンスキーの「ヴィーン我が夢の街」、ビゼー「アルルの女」第二組曲よりメヌエット、ヨハン=シュトラウス(父)の「アンネン-ポルカ」の三曲であった。「アンネン-ポルカ」では、モニカ=モッシャーがシャンパーニュを放つは、グラスを落として割ってしまうわと、やりたい放題であった。

2017年6月3日土曜日

Nagoya Philharmonic Orchestra, the 446th Subscription Concert, review 第446回 名古屋フィルハーモニー交響楽団 定期演奏会 評

2017年6月3日 土曜日
Saturday 3rd June 2017
愛知県芸術劇場コンサートホール (愛知県名古屋市)
Aichi Prefectural Art Theater Concert Hall (Nagoya, Japan)

曲目:
吉松隆/ Yoshimatsu Takashi: 「鳥は静かに…」 / ‘And Birds are Still...’ op.72
Пётр Ильич Чайковский / Pyotr Ilyich Tchaikovsky: Concerto per violino e orchestra op.35
(休憩)
Дмитрий Дмитриевич Шостакович / Dmitrii Shostakovich: Sinfonia n.12 op.112 ≪1917-й год≫ 「1917年」

violino: Noah Bendix-Balgley (ノア=ベンディックス-バルグリー)
orchestra: Nagoya Philharmonic Orchestra(名古屋フィルハーモニー交響楽団)
direttore: 川瀬賢太郎 / Kawase Kentaro

名古屋フィルハーモニー交響楽団は、米国生まれのノア=ベンディックス-バルグリー(ヴァイオリン)をソリストに、川瀬賢太郎を指揮者に迎えて、2017年6月2日・3日に愛知県芸術劇場で、第446回定期演奏会を開催した。この評は、第二日目の公演に対してのものである。

今回のプログラムは、保守化した今シーズンのプログラムの中では例外的に良心的なもので、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲を別とすれば、吉松隆による1998年の作品「鳥は静かに…」、ドミトリー=ショスタコーヴィチの交響曲第12番と、近現代音楽から構成されている。バランスが取れた曲目と言えるかもしれない。

管弦楽配置は、舞台下手側から、第一ヴァイオリン→第二ヴァイオリン→ヴァイオリン-チェロ→ヴィオラのモダン配置で、コントラバスはチェロの上手側につく。管楽パートは後方中央、打楽器は中央最後方下手側の位置につく。

着席位置は一階正面後方中央、客の入りは9割程であろうか、かなり観客数は多いと思われたが、チケット完売には至らなかった。観客の鑑賞態度については、時折ノイズはあったものの、概ね良好であった。

「鳥は静かに...」は、弦楽のみによる神経を通わした演奏である。

二曲目のチャイコフスキーによるヴァイオリン協奏曲は、一言で言うと面白かった。

ヴァイオリンのNoah Bendix-Balgley は、特に第一楽章前半では遅めのテンポで朗々と奏でるような方向性の演奏で、少し小技を用いてニュアンスを掛けてはいるものの、眠くなりがちのように思えた。しかし、ヴァイオリンが休み管弦楽のみで最強奏全速前進し始めた箇所は、目が覚め、ここからが Noah と川瀬賢太郎とによる共謀作業が始める。Noah のカデンツァは、朗々とした美しい響きで、王道を歩む演奏だ。

第二楽章では、極限まで弱い響きにしたりするし。第三楽章冒頭で、Noah がリタルダンドを掛けるニュアンスはバッチリ効いた。第一楽章とは逆に、管弦楽だけで極端に遅いテンポにした箇所もあり、ニヤケてしまう。

一方で、Noah と川瀬賢太郎とによる構成はよく考えられており、ソリストと管弦楽との響きのバランスも取れており、記憶に留められない程の数々の仕掛けにより、個性溢れるチャイコフスキーを実現した。

好き嫌いが分かれそうな演奏であり、ブーイングとこれに対抗するブラヴォーが飛び交うかと期待、、じゃなかった、心配をしたが、観客の反応は思ったよりも暖かい反応で、その意味では、つまらなかった(←コラ

後半は、ショスタコーヴィッチの交響曲第12番である。前常任指揮者である Martyn Brabbins による、現代音楽の演奏により鍛え上げられた、名フィルの総力を結集した演奏である。弦管打全てが的確に絡み合い、全奏者が一致団結して成し遂げる演奏である。もちろん、どんな強奏になっても美しい響きを保つ管楽の力には注目させられるけど、弦楽も士気に溢れるパッションを出し、打楽もショスタコーヴィッチの求める躍動感を見事に表出する。全管弦楽が一体となったハーモニーの美しさが、どんなに速く強く演奏する箇所でも、常に保たれる。フル-オーケストラの威力を存分に堪能した演奏であった。

#名フィル446