2017年2月19日日曜日

Orchestra Ensemble Kanazawa, Il Barbiere di Siviglia , the 386th Subscription Concert, review 第386回 オーケストラ-アンサンブル-金沢 定期演奏会 評

2017年2月19日 日曜日
Sunday 19th February 2017
石川県立音楽堂 (石川県金沢市)
Ishikawa Ongakudo (Ishikawa Prefectural Concert Hall) (Kanazawa, Japan)

曲目:
Gioachino Rossini: Il Barbiere di Siviglia (「セヴィージャの理髪師」)

Il Conte d'Almaviva: David Portillo
Don Bartolo: Carlo Lepore
Rosina: Serena Malfi
Figaro: Andrzej Filończyk
Don Basilio: 後藤春馬 / Goto Kazuma
Berta: 小泉詠子 / Koizumi Eiko
Fiorello: 駒田敏章 / Kodama Toshiaki
Ambrogio: 山本悠尋 / Yamamoto Yukihiro
Un ufficiale: 濱野杜輝 / Hamano Toki

Coro: 金沢ロッシーニ特別合唱団 / Kanazawa Rossini Special Chorus

Stage Director: Ivan Alexandre

orchestra: Orchestra Ensemble Kanazawa (OEK)(オーケストラ-アンサンブル-金沢)
maestro del Coro: 辻博之 / Tsuji Hiroyuki
direttore: Marc Minkowski

オーケストラ-アンサンブル-金沢は、指揮にマルク=ミンコフスキを迎えて、2017年2月19日に石川県立音楽堂で、第386回定期演奏会として、ロッシーニの歌劇「セヴィージャの理髪師」を演奏会形式にて上演した。

管弦楽配置は、舞台下手側から、第一ヴァイオリン→ヴィオラ→ヴァイオリン-チェロ→第二ヴァイオリンの左右対抗配置で、コントラバスはチェロの上手側につく。管楽パートは後方中央、打楽器は上手側の位置につく。

ピアノはフォルテピアノを用い、奏者が下手側を向くように上手側に配置し、蓋は取り外された。

着席位置は一階正面わずかに後方上手側、客の入りは九割程であろうか、チケット完売には至らなかった。観客の鑑賞態度は、概ね極めて良好だった。

演奏について述べる。

全般的に歌い手も充実している。新国立劇場で有りがちな、過剰なヴィブラートを掛けて汚く歌う歌い手は、誰一人いない。特に Almaviva伯爵役の David Portillo、Rosina役のSerena Malfi、Bartolo役の Carlo Lepore は完璧である。また、外国人ゲストのみならず、Berta役の小泉詠子 / Koizumi Eiko も第二幕にある唯一の見せ場で素晴らしいソロを披露した。

第一幕では、アルマヴィーラ伯爵(David Portillo)がオルガンバルコニーにいるロジーナ(Serena Malfi)、に対し、ギターと共に歌う場面が、私にとっての白眉である。ベルタがロジーナを捕まえる展開でさえなければ、盛大なBraviが飛びまくったに違いない。

第一幕は素晴らしかったが、やはり第二幕は圧巻である。これは、ソリスト・合唱・管弦楽・指揮のマルクと全てががっしり組み合わさった結果である。

変声で変装しているアルマヴィーラ公爵役の David Portillo が仕掛けると、ロジーナ役 Serena Malfi が完璧な「無駄な用心」で答える。

第一幕が進行するに従って固さが取れた管弦楽 Orchestra Ensemble Kanazawa も、独特の音色を決めてくるなど、進行に連れどんどん冴え渡ってきて最良の響きを出す。この場面でこの響き、と Marc Minkowski が求めていたであろう響きは実現されているに違いない。 Marc の期待に大いに答えたであろう!

ピアノはフォルテピアノを用い、 Gioachino Rossini の時代を再現するなど、企画面でも完璧な配慮が為されている。プロレスのようなマイク-パフォーマンスをさせてもらうが、新国立劇場よ、飯守泰次郎よ、君らにピットにフォルテピアノを入れる根性はあるか?金沢では実現してんだぜ!と言うところである。

大き過ぎる東京の劇場・音楽堂では実現出来ない、大ホール部門では全世界で間違いなく三本の指に入る、1560席の石川県立音楽堂の優れた音楽堂だからこそ、可能なプロダクションである。劇場で再現するとしたら、1100席規模のチューリッヒ歌劇場(Opernhaus Zürich)でなければ不可能であろう。スタインウェイのピアノを入れるロッシーニなど、考えられない。著名大劇場の真似事をやって1814席もの巨大な新国立劇場を建設した当時の日本オペラ界の見識は、厳しく指弾されて然るべきである。

この、Orchestra Ensemble Kanazawa による、 Marc Minkowski 指揮による 'Il Barbiere di Siviglia ' の公演は、巨大な劇場や音楽堂志向によって見捨てられた音楽的価値を拾い上げるものである。この金沢に於ける公演の意義は、単に一つの演奏会形式による歌劇公演の成功に収まらない。日本の音楽史上でも意義のある公演であった。

#oekjp

2017年2月12日日曜日

Sato Shunsuke + Kosuge Yu + Lorenzo Coppola, recital, (12th February 2017), review 佐藤俊介 + 小菅優 + ロレンツォ=コッポラ トリオ 「20世紀の作品群」 松本公演 評

2017年2月12日 日曜日
Sunday 12th February 2017
松本市音楽文化ホール (長野県松本市)
The Harmony Hall (Matsumoto Municipal Concert Hall) (Matsumoto, Japan)

曲目:
Darius Milhaud: Suite per violino, clarinetto e pianoforte op.157b
Maurice Ravel: Sonata per violino e pianoforte
Alban Berg: Quattro pezzi per clarinetto e pianoforte op.5
(休憩)
Արամ Խաչատրյան / Арам Ильич Хачатурян / Aram Il'ich Khachaturian: Trio per clarinetto, violino e pianoforte
И́горь Фёдорович Страви́нский / Igor Stravinsky: ‘L'Histoire du soldat’ 「兵士の物語」

violino: 佐藤俊介Sato Shunsuke
pianoforte: 小菅優 Kosuge Yu
clarinetto: Lorenzo Coppola

佐藤俊介、小菅優、ロレンツォ=コッポラの三人によるトリオは、2017年2月10日から12日に掛けて、盛岡市民文化ホール(岩手県盛岡市)、彩の国さいたま芸術劇場音楽ホール(埼玉県与野市)、松本市音楽文化ホール(長野県松本市)にて、リサイタル「20世紀の作品群」を計3公演開催した。プログラムは全て同一である。

この評は、千秋楽2017年2月12日松本市音楽文化ホールでの公演に対する評である。

着席位置は後方正面やや上手側、観客の入りは約5割である。メジャーな作曲家でなく、室内楽であり、松本市周辺の人口規模を考慮すると、これだけ集まっただけでも良しとするしかないか?観客の鑑賞態度は、概ね良好だった。

この演奏会の曲目は、ミヨー・ラヴェル・ベルク・ハチャトゥリアン・ストラヴィンスキーと、20世紀の曲目のみで構成されている。いずれも、第一次世界大戦前後に作曲されている。

クラリネットは、フランス式(技巧的な曲を吹きやすくした)とヴィーン式(弱音器をつけたような音を出せるようにした)の両方を用いた。ヴィーン式はベルクに対してのみ用いている。

総じて、挑戦的な曲目のどの曲も繊細に神経を通わし、ホールの響きを味方につけた素晴らしい演奏である。

名手が揃えば、完成度の高い演奏となるのは、当然と言えば当然と言えるが、それでもこの松本市音楽文化ホールは響くホール故に響かせ方が難しく、どのように観客に対して音圧を掛けるかは精密な計算が必要かと思われる。この難しいホールで、どの場面でも、弱音の綺麗さや強音の力強さ、明るい場面と暗い場面、いずれも場面でも完璧な響きで表現する。曲の構成も奇を衒わず、正統的なアプローチで攻める方向性である。

私の勝手な個人的な注目ポイントは、ラヴェルのヴァイオリン-ソナタで第一楽章終盤の、佐藤俊介が奏でたノンヴィブラートのヴァイオリンの響きだ。透明感のある、ピンと張り詰める響きの完璧さは、やはりテンションが上がる。

アンコールは、第一曲目である、ミヨーの「ヴァイオリン、クラリネットとピアノのための組曲」作品157bより 第4曲〈序奏と終曲〉の終曲部であった。

2017年2月11日土曜日

The Fujiwara Opera, Opera ‘Carmen’ (2017) review 藤原歌劇団 歌劇「カルメン」 感想

2017年2月11日 土曜日
Saturday 11th February 2017
愛知県芸術劇場 (愛知県名古屋市)
Aichi Prefectural Art Theater (Nagoya, Japan)

演目:
Georges Bizet: Opera ‘Carmen’
ジョルジュ=ビゼー 歌劇「カルメン」

Carmen: Милијана Николић / Milijana Nikolic
Don José: 笛田博昭 / Fueda Hiroaki
Escamillo: 王立夫 / Wang Lifu
Micaëla: 伊藤晴 / Ito Hare
Zuniga: 伊藤貴之 / Ito Takayuki
Moralès: 押川浩士 / Oshikawa Hiroshi
Le Dancaïre: 安東玄人 / Ando Gento
Le Remendado: 狩野武 / Karino Takeshi
Frasquita: 平野雅世 / Hirano Masayo
Mercédès: 米谷朋子 / Maiya Tomoko

ballerini: 平富恵スペイン舞踊団 / Yoshie Taira Spanish Dance Company

Coro: Fujiwara Opera Chorus Group(合唱:藤原歌劇団合唱部)
Coro dei bambini: The Little Singers of Tokyo (児童合唱:東京少年少女合唱隊)

Production: 岩田達宗
Set design: 増田寿子
Costumes design: 半田悦子
Lighting design: 大島祐夫

orchestra: Aichi Chamber Orchestra (管弦楽:愛知室内オーケストラ)
maestro del Coro: 須藤桂司
direttore: 山田和樹 / Yamada Kazuki

藤原歌劇団 / 日本オペラ振興会は、2017年2月3日から11日までの日程で、山田和樹の指揮による歌劇「カルメン」を4公演開催する。この評は2017年2月11日に催された第四回目(千秋楽)の公演に対するものである。版はギロー版を用いており、同時期に新国立劇場で上演されたレチタティーヴォを用いた版とは異なるものとなる。

着席位置は一階正面ほぼ真ん中である。観客の入りは8割程か?観客の鑑賞態度は、一階席に於いては序曲演奏中の私語が目立った。

舞台は伝統的なものであり、衣装を含めて前衛的な要素は何一つない、正統的なものだ。第四幕では、ホセの暴力性とカルメンの意志の強さを強調したものであり、ホセに二回カルメンを刺させることにより、ホセの強い殺意を表現する点は素晴らしい。舞踊はフラメンコ舞踊団を用いている。

ソリストの出来について述べる。

断トツに素晴らしいのは、ホセ役の笛田博昭である。愛知県芸術劇場の巨大な空間を自由自在に操れる声量はもちろんのこと、控えめなヴィブラート故に声に伸びやかさが感じられ、また綺麗な声質であり、ホセの純情さを見事に表す。一方で、ストーカー殺人者と化した第四幕での説得力も不思議な程に強く、終始この上演をリードする。よくぞ日本に留まってくれていると感謝の念を禁じ得ない。

ミカエラ役の伊藤晴も素晴らしい。かなりの程度、愛知県芸術劇場の空間に対応し、第三幕に於ける、ここぞという場面での強声は絶大なる効果を発揮する。第一幕・第三幕でのホセとの二重唱も、笛田博昭と見事に対抗でき、観客の涙腺を潤ませる。

カルメン役の Милијана Николић / Milijana Nikolic は、ムラが目立つ。全ての場面で愛知県芸術劇場の巨大な空間を支配する声ではない。また、自然な演技と言うよりは作為的な箇所が目立ち、特に第一幕では下品そのものである。そりゃ、カルメンが品のある女ではないから、その路線はあるのかもしれないけれど。また、長音部にてヴィブラートが過剰と感じられる箇所もある。わざわざ外国からソリストを招聘する意味はあるのだろうか?

エスカミージョ役の王立夫は、見栄えはともかくとして、声に魅了させられる要素がなく、カルメンが心変わりする説得力が全くない。主要キャストとして選定される理由は感じられない。

その他の歌い手としては、フラスキータ役の平野雅世、ダンカイロ役かレメンダード役(または両方)は素晴らしい。メルセデス役の米谷朋子は、妙にカッコいい女性である♪

舞踊は、フラメンコ舞踊団である平富恵スペイン舞踊団が担当する。第二幕でお立ち台にで踊るのは平富恵であろうか、お美しい。私の席からは、舞台前方中央に出てきたカルメン役に視界が奪われてしまったが。フラメンコ独特の足音は、控えめに出すことについては許可が出されたのだろうか?通常のバレエによるほぼ無音の足音とは違う雰囲気である。

全般的に、第一幕では愛知県芸術劇場の空間に慣れていないアウェー感が強く感じられる。しらかわホールで演奏する機会が多い愛知室内オーケストラにとって、この巨大な空間はやはり難儀するのであろう。第一幕ではモヤモヤする響きが目立ったが、それでも進行に連れてしっかりと響かせ、歌い手とのコンビネーションも良くなっていく。歌い手の溜めを長めに取る傾向が強く、笛田博昭の絶好調な声と合わせ、的確なアクセントを与える。

ホセ役笛田博昭のリードと、これに応えたミカエラ役伊藤晴の二人の功績がなければどうなっていただろうと思わせる点はあるものの、巨大劇場の悪条件の中で、一定の成果を挙げた公演であった。

なお、特筆すべき事柄として、第四幕の「知事のお出まし」の場面で、大村秀章 愛知県知事がサプライズ出演する。選挙間近でなかれば、こういうパフォーマンスは今の時代だからこそ大事になってきている。文化芸術に対する国(連邦)政府・地方自治体の責務を放棄しようとするポピュリズム政治屋が出現している今(例:トランプ米国大統領・橋下徹・松井一郎 大阪府知事)、オペラ公演へのサプライズ出演により、「愛知県は文化芸術を全県を挙げて支援する」というメッセージを発し、コミットメントを示した 大村秀章 愛知県知事 に敬意を表したい。

(お断り:団体名に用いている個人名について、英語表記は名姓順に表記している。その団体が用いている表記を採用したためであり、ラテン文字表記による日本人表記は姓名順であるべきとの私の考えを変更したものではない)