2017年2月11日 土曜日
Saturday 11th February 2017
愛知県芸術劇場 (愛知県名古屋市)
Aichi Prefectural Art Theater (Nagoya, Japan)
演目:
Georges Bizet: Opera ‘Carmen’
ジョルジュ=ビゼー 歌劇「カルメン」
Carmen: Милијана Николић / Milijana Nikolic
Don José: 笛田博昭 / Fueda Hiroaki
Escamillo: 王立夫 / Wang Lifu
Micaëla: 伊藤晴 / Ito Hare
Zuniga: 伊藤貴之 / Ito Takayuki
Moralès: 押川浩士 / Oshikawa Hiroshi
Le Dancaïre: 安東玄人 / Ando Gento
Le Remendado: 狩野武 / Karino Takeshi
Frasquita: 平野雅世 / Hirano Masayo
Mercédès: 米谷朋子 / Maiya Tomoko
ballerini: 平富恵スペイン舞踊団 / Yoshie Taira Spanish Dance Company
Coro: Fujiwara Opera Chorus Group(合唱:藤原歌劇団合唱部)
Coro dei bambini: The Little Singers of Tokyo (児童合唱:東京少年少女合唱隊)
Production: 岩田達宗
Set design: 増田寿子
Costumes design: 半田悦子
Lighting design: 大島祐夫
orchestra: Aichi Chamber Orchestra (管弦楽:愛知室内オーケストラ)
maestro del Coro: 須藤桂司
direttore: 山田和樹 / Yamada Kazuki
藤原歌劇団 / 日本オペラ振興会は、2017年2月3日から11日までの日程で、山田和樹の指揮による歌劇「カルメン」を4公演開催する。この評は2017年2月11日に催された第四回目(千秋楽)の公演に対するものである。版はギロー版を用いており、同時期に新国立劇場で上演されたレチタティーヴォを用いた版とは異なるものとなる。
着席位置は一階正面ほぼ真ん中である。観客の入りは8割程か?観客の鑑賞態度は、一階席に於いては序曲演奏中の私語が目立った。
舞台は伝統的なものであり、衣装を含めて前衛的な要素は何一つない、正統的なものだ。第四幕では、ホセの暴力性とカルメンの意志の強さを強調したものであり、ホセに二回カルメンを刺させることにより、ホセの強い殺意を表現する点は素晴らしい。舞踊はフラメンコ舞踊団を用いている。
ソリストの出来について述べる。
断トツに素晴らしいのは、ホセ役の笛田博昭である。愛知県芸術劇場の巨大な空間を自由自在に操れる声量はもちろんのこと、控えめなヴィブラート故に声に伸びやかさが感じられ、また綺麗な声質であり、ホセの純情さを見事に表す。一方で、ストーカー殺人者と化した第四幕での説得力も不思議な程に強く、終始この上演をリードする。よくぞ日本に留まってくれていると感謝の念を禁じ得ない。
ミカエラ役の伊藤晴も素晴らしい。かなりの程度、愛知県芸術劇場の空間に対応し、第三幕に於ける、ここぞという場面での強声は絶大なる効果を発揮する。第一幕・第三幕でのホセとの二重唱も、笛田博昭と見事に対抗でき、観客の涙腺を潤ませる。
カルメン役の Милијана Николић / Milijana Nikolic は、ムラが目立つ。全ての場面で愛知県芸術劇場の巨大な空間を支配する声ではない。また、自然な演技と言うよりは作為的な箇所が目立ち、特に第一幕では下品そのものである。そりゃ、カルメンが品のある女ではないから、その路線はあるのかもしれないけれど。また、長音部にてヴィブラートが過剰と感じられる箇所もある。わざわざ外国からソリストを招聘する意味はあるのだろうか?
エスカミージョ役の王立夫は、見栄えはともかくとして、声に魅了させられる要素がなく、カルメンが心変わりする説得力が全くない。主要キャストとして選定される理由は感じられない。
その他の歌い手としては、フラスキータ役の平野雅世、ダンカイロ役かレメンダード役(または両方)は素晴らしい。メルセデス役の米谷朋子は、妙にカッコいい女性である♪
舞踊は、フラメンコ舞踊団である平富恵スペイン舞踊団が担当する。第二幕でお立ち台にで踊るのは平富恵であろうか、お美しい。私の席からは、舞台前方中央に出てきたカルメン役に視界が奪われてしまったが。フラメンコ独特の足音は、控えめに出すことについては許可が出されたのだろうか?通常のバレエによるほぼ無音の足音とは違う雰囲気である。
全般的に、第一幕では愛知県芸術劇場の空間に慣れていないアウェー感が強く感じられる。しらかわホールで演奏する機会が多い愛知室内オーケストラにとって、この巨大な空間はやはり難儀するのであろう。第一幕ではモヤモヤする響きが目立ったが、それでも進行に連れてしっかりと響かせ、歌い手とのコンビネーションも良くなっていく。歌い手の溜めを長めに取る傾向が強く、笛田博昭の絶好調な声と合わせ、的確なアクセントを与える。
ホセ役笛田博昭のリードと、これに応えたミカエラ役伊藤晴の二人の功績がなければどうなっていただろうと思わせる点はあるものの、巨大劇場の悪条件の中で、一定の成果を挙げた公演であった。
なお、特筆すべき事柄として、第四幕の「知事のお出まし」の場面で、大村秀章 愛知県知事がサプライズ出演する。選挙間近でなかれば、こういうパフォーマンスは今の時代だからこそ大事になってきている。文化芸術に対する国(連邦)政府・地方自治体の責務を放棄しようとするポピュリズム政治屋が出現している今(例:トランプ米国大統領・橋下徹・松井一郎 大阪府知事)、オペラ公演へのサプライズ出演により、「愛知県は文化芸術を全県を挙げて支援する」というメッセージを発し、コミットメントを示した 大村秀章 愛知県知事 に敬意を表したい。
(お断り:団体名に用いている個人名について、英語表記は名姓順に表記している。その団体が用いている表記を採用したためであり、ラテン文字表記による日本人表記は姓名順であるべきとの私の考えを変更したものではない)