2013年10月20日 日曜日
三井住友海上しらかわホール (愛知県名古屋市)
同日に行われたリサイタル(別稿参照)の後で開催された、アフタートークでアンジェラ-ヒューイットが話した内容について記述する。
なお、英語で書かれてある箇所を除き日本語での通訳の内容をまとめたものであり、通訳の正確性及び、私の聴きとり・解釈の正確性、この二重の意味で内容の正確性は保証しない。
通訳は久野理恵子である。この通訳は、2013年2月9日に横浜みなとみらいホールで開催された「エサ-ペッカ=サロネン 自作を語る」でも登場していた通訳でもあり、音楽の知識を併せ持った通訳であることは明らか、音楽関係の通訳者としては、その業界ではかなり名を知られているのでないだろうか。ナビゲーターは、月刊ぶらあぼ編集長の田中泰である。
リサイタル後に帰った観客は半分くらいいた。演奏会終了後、アフタートークまでに40分近い時間があったからなのか、名古屋人の気質によるものなのか。
以下、アンジェラ=ヒューイットが話した内容である。
J.S.バッハの「フーガの技法」をについて、二回に分けて演奏する(注:名古屋公演では10月20日と22日に分けて、「フーガの技法」を半分ずつ演奏した)ことについて
外国のホール(注:実際にはそのホールの名を挙げていた。ロンドンのロイヤル-フェスティバルホール?)の企画により、二回に分けて演奏する機会があった。その流れである。
「フーガの技法」は退屈な作品だと思っていた。演奏のやり方によって違う成果が得られる。十年前や十五年前であったら、今のようにはできなかったかも。
「フーガの技法」には楽器の指定がない。音符しかない。様式への理解が必要である。曲を理解するに当たっては、垂直にではなく、水平に見ていく必要がある。
「フーガの技法」は、バッハが自分自身のために作ったものだ。既に流行遅れの様式であった。楽譜は30部しか売れなかった。聴く側にも相当の集中力を要する。
プログラムにベートーフェンとの組み合わるに当たって、op.101(10月20日公演)とop.110(10月22日公演)を対象とした。二つとも最終楽章がフーガ形式である。ベートーフェンをバッハからみる(ショパンからではなく)。
10月20日公演の際にバッハの作品でヴィルヘルム=ケンプ編曲の作品を入れた理由については、オルガニストでもあったケンプへのオマージュである。
「フーガの技法」に於けるバッハの絶筆部(コントラプンクトゥス14)は感動的な場所である。ここで演奏を止める。沈黙の中で生きるものがある。この後コラールに進む。バッハが口述筆記したものである。バッハ最期の部分であるが、死であるがト長調で書かれてあり、そこにバッハの生き様が表れている。(注:この部分は10月22日の演奏で実現されたかと思われる。残念ながら、私は臨席していない)
映像を作っているが、この目的は解説である。日本では日本語ができないため行っていないが、演奏会時には簡単な解説をしている。
(ここからピアノによる実演を行いながら「フーガの技法」を解説し始める)
コントラプンクトゥス6については、楽譜通りに弾いてはならない。フランス様式の文脈によって弾いていかなければならない。(楽譜通りとフランス様式の文脈での演奏を実演して)、フランス様式の文脈の演奏の方が面白いでしょ♪
コントラプンクトゥス14は四部形式、4つ目の主題があると考えている。三つの主題を一緒にしたものに、オリジナルなものを加えている。
バッハは音楽を無限のものと考えていたのではないか。曲を終わらせたくなかったのでは。
(ピアノ実演はここで終わり。その他にも解説はあったが、どうにも辻褄が合わないところがあり、自信を持てない部分は割愛した)
1979年のコンクールでは、デリカシーのある演奏を行う事が出来た。
グレン=グールドとの唯一の共通点はカナダ人であることだけ。
私(アンジェラ)もグレン=グールドも自分の道を歩んできた。グールドは「フーガの技法」をオルガンで演奏した。オルガンでは音の透明感や声部を際立たせる効果がある。一方でピアノは広い強弱・音域を実現できる。
カナダ楽派が無いのが良かった。これにより個性的な音楽家が生じた。ヨーロッパから優秀な先生が来てくれた事は、その要因である。
ファツィオリ社(イタリア、ヴェネツィアのピアノ工房)のピアノは1999年から使用している。タッチが絶妙であり、最高にクリエイティブなコントロールが行える。高音部では音が跳ねまわり軽やかに響く。一方低音部はクリアな響きである。
iPadの楽譜は、そんなに集中して見ていない。何もない砂漠で三週間邪魔もなく過ごせれば、暗譜は可能であるが、そのような機会はない。しかしながら、譜めくりの人が横にいるのは嫌だ。楽譜のめくりは足により操作する。楽譜は、私(アンジェラ)が記号を書いたものをスキャンしてiPadに読み込む。
イタリアはペルージャ(ウンブリア州)のフェスティバルは、2014年は7月5日から11日まで、7日間に6演奏会を開く。2014年で第10回目を迎える。多くの仲間と一緒に演奏できる機会である。
ベートーフェンのop.101・op.110は、レガートは指で実施し、ペダルを用いてはならない。ベートーフェンは葛藤が大事である。透明感が必要なのは、バッハと一緒である。
集中力は徐々に培うものである。他の考えをシャットアウトするしなければならない。6時間トレーニングした時は、6時間歌っている(別の事をしている)。しかしながら、ピアノを弾きながら歌ったりなんてしないですよ、グレン=グールドではないのですから♪♪