2013年7月13日土曜日

PMF (Pacific Music Festival) 2013管弦楽演奏会(プログラムA)評

2013年7月13日 土曜日
札幌コンサートホールkitara (北海道札幌市)

曲目:
アントニーン=ドヴォルジャーク 交響詩「真昼の魔女」 op.108
アントニーン=ドヴォルジャーク ヴァイオリン協奏曲 op.53
(休憩)
アントニーン=ドヴォルジャーク 交響曲第8番「大交響曲」 op.88

ヴァイオリン:ヴェロニカ=エーベルレ
管弦楽:PMF管弦楽団(+PMFヨーロッパ)
指揮:アレクサンドル=ヴェデルニコフ

札幌市を中心に開催されるPacific Music Festival (PMF) 2013は、7月6日から31日まで開催され、ヴィーン-フィル等から招かれた奏者による若手音楽家に対する教育の他、多数の形態の演奏会により構成される。管弦楽演奏会は三プログラムあり、この評はプログラムA、第一日目札幌コンサートホールkitaraでの公演に対してのものである。

管弦楽配置は、舞台下手側から、第一ヴァイオリン→第二ヴァイオリン→ヴィオラ→ヴァイオリン-チェロのモダン配置で、コントラバスはチェロの後方につく。木管パートは後方中央、ホルンは後方上手側、その他の金管・ティンパニは後方中央から下手側の位置につく。

着席位置は正面2階前方中央、客の入りはほぼ7割位であろうか、舞台後方席(Pブロック)、3階席サイド(LC・RCブロック)に空席が目立つ。

この演奏会は、全てドヴォルジャークの作品である。当初の予定ではイルジー=コウトが指揮を担当するところであったが、疾病によりアレクサンドル=ヴェデルニコフに変更となった。

第一曲目は、交響詩「真昼の魔女」、若手を中心とした楽団員による演奏だ。管楽をよく響かせた、題名から想像するようなおどろおどろしさがない、綺麗な演奏だ。

第二曲目はヴァイオリン協奏曲、ソリストは1988年に生まれたドイツ出身の若手、ヴェロニカ=エーベルレである。全般的にテンポは中庸で変化はそれほどない傾向である。エーベルレのソロはパワーが弱めで管弦楽に負けていて、特に第一楽章ではソリストの役割を果たしていない。それでも楽章が進むに連れ少しずつ改善される。第三楽章の冒頭の響きは素晴らしい。また、高音部でステップを刻む部分も良い。その代わり第三楽章では管弦楽が途端に大人しくなり、相当抑えた響きとなる。あるいは管弦楽を犠牲にしてソリストを引き立たせているようにも思える。

休憩後の三曲目は、交響曲第8番である。PMF教育プログラムの教授陣である「PMFヨーロッパ」が楽団員として加わり、コンサートマスターはライナー=キュッヒル、ホルンにラデク=バボラークも配置される強力な布陣だ。

フルートの役割が極めて重大な曲であるが、冒頭のつかみから成功している。冒頭間も無くあるピッコロ(おそらくフルートで唯一の日本人メンバーである有田紘平によるものであろうか)の安定感ある響きで観客を魅了する。朗々と響かせる部分のフルートは絶品だ。

ホルンは若手に美味しいところを吹かせている。バボラークは、地味な場面で演奏し、如何に管弦楽全体の響きを下支えするかを提示しているのだろう。

全般的にその他の管楽も含めてよく響いていた。

極め付けはキュッヒル率いるヴァイオリンであろう。演奏が始まる前から、キュッヒルが実に恐ろしいオーラを発している。ヴァイオリンパートは、指揮者の言うことを聞かずにキュッヒルに従って演奏しているかのような、まるで軍事クーデタでも決起しているかのような演奏だ。

いや、軍事クーデタと言うのはさすがに妄想か。それでも、あの自発的な濃いニュアンスが、指揮者からの指示によるものとは思えない。全体リハーサルの前にキュッヒルがヴァイオリンパート全員に濃密な教育を施し、その成果を全体リハーサルで提示して、ヴェデルニコフの追認を得たというのが真相か。キュッヒルの教育の賜物は実に凄いもので、たった一人のコンサートマスターによってこれほどまでに音が違ってくるのかと感嘆する。縦の線が揃っている上、あれだけテンションが高い濃い表情を若手奏者一人ひとりに極めて高度に貫徹しているところが恐ろしい。ヴァイオリンの可能性について、その極限をキュッヒルは身をもって示す。

長野五輪の際の「第九」演奏会の時にも感じたが、彼はコンサートマスターとして世界最高の実力を示している。コンサートマスターがどのような役割を果たすべきかについて、キュッヒルは究極の模範である。さすが、長年ヴィーン-フィルのコンサートマスターで実力を発揮しているだけの事はある。

PMFがこれほどまでに高い水準の演奏をするとは、正直思わなかった。演奏会のチケット確保の段階から準備を踏んで、飛行機で飛んでまで慣れない札幌の街までやってきたかいがあった。札幌在住であれば、室内楽演奏会を含めて全てのプログラムに参加したいくらいだ。