2013年6月9日日曜日

田部京子+カルミナ四重奏団 岐阜公演 演奏会評

2013年6月9日 日曜日
ふれあい福寿会館 サラマンカホール (岐阜県岐阜市)

曲目:
フェリックス=メンデルスゾーン=バルトルディ 無言歌集より「ヴェネツィアのゴンドラの歌 第2番」
ロベルト=シューマン 「子供の情景」より「トロイメライ」
エドヴァルド=グリーグ 抒情小曲集より「トロルドハウゲンの婚礼の日」
アントニーン=ドヴォジャーク 弦楽四重奏曲第12番 「アメリカ」 op.96
(休憩)
フランツ=シューベルト ピアノ五重奏曲 「ます」 D667 op.166

ピアノ:田部京子
コントラバス:井戸田善之
カルミナ弦楽四重奏団
ヴァイオリン:マティーアス=エンデルレ・スザンヌ=フランク
ヴィオラ:ウェンディ=チャンプニー
ヴァイオリン-チェロ:シュテファン=ゲルナー

着席場所は、一階中央上手側である。客の入りは八割程である。

本日のプログラム構成は、まず田部京子のピアノ-ソロによる小品が三曲演奏された後、カルミナ弦楽四重奏団のみによるドボルジャークの「アメリカ」が演奏される。休憩後は、田部京子とカルミナ弦楽四重奏団(第二ヴァイオリンのスザンヌ=フランクはお休み)に加え、NHK交響楽団コントラバス奏者の井戸田善之を加えての「ます」である。

田部京子のピアノ-ソロは、昨日の浜離宮朝日ホールでの公演と比べ非常に良く響く。下手側から上手側に席が移っただけでなく、ホールの特性も影響しているのだろう。浜離宮朝日ホールのような、何かフィルターを掛けたかのような音とは対照的な、率直な音が飛んできて、かつ豊かな残響に包まれる理想的な形である。

静の曲では丁寧なタッチで非常に上品な演奏であるが、「トロルドハウゲンの婚礼の日」と言った華麗な曲では、綺麗な響きを重視しつつも躍動感をも感じさせる演奏になる。サラマンカホールの残響を敢えてそのまま活かした部分も効果的である。

続いて、カルミナ弦楽四重奏団の「アメリカ」が演奏されるが、浜離宮朝日ホールでの演奏と比べ、明らかに響きが明瞭である。叙情的な第二楽章はしっかりと響かせ、全曲に渡って各奏者のパッションが綺麗な響きによって見事に表現され、全てがきちっと噛み合いまとまった演奏だ。やはり、ホールは演奏に重大な影響を及ぼすものだと改めて認識する。ホールの完成度は、サラマンカホールの圧勝である。

後半の「ます」は、「アメリカ」で示された路線をさらに深く追求した演奏で、完璧と言ってよい。田部京子も井戸田善之も、初めからカルミナ弦楽四重奏団に加入しているかのように、一体感のある演奏である。どこで誰を際立たせるか、よく考えられた演奏だ。第四楽章ではピアノで軽やかに跳び跳ねるかと思えば、ヴァイオリンが力強く奏で始めたりと、多彩な姿を楽しませてくれる。

この演奏会は「シューベルトの『ます』を聴きたい!」などという、ちょっと恥ずかしい副題が付けられているが、これほどまでの「ます」を聴いたら、まあ許しても良いだろう。今回の演奏を超える「ます」を実現する事は、かなり難しいのではないだろうか。演奏者のパッションと技巧とサラマンカホールの響きの全てが巧く絡み合い、とても優れた演奏である。

アンコールは、昨日と同じくブラームスのピアノ五重奏曲から、第三楽章であった。