2013年4月6日土曜日

18世紀管弦楽団 東京公演 評

2013年4月6日 土曜日
すみだトリフォニーホール (東京)

曲目:
フランツ=ペーター=シューベルト 交響曲第7(8)番「未完成」 D759
(休憩)
フェリックス=メンデルスゾーン-バルトルディ 交響曲第3番 「スコットランド」op.56 (現行版)

管弦楽:18世紀管弦楽団
指揮:フランス=ブリュッヘン

すみだトリフォニーホールでは、2013年4月4日から4月15日までにわたり、フランス=ブリュッヘンを指揮者に迎え、18世紀管弦楽団と三公演、新日本フィルハーモニー交響楽団(NJP)と一公演、演奏会を開催する。この評は、第三回目、4月6日に開催された公演に対してのものである。なお、この公演を持ってブリュッヘン指揮による18世紀管弦楽団の日本に於ける公演は最後となる。ブリュッヘン指揮による日本に於ける最終公演は、4月15日NJPとの公演となる。

ブリュッヘンは車椅子に乗せられて搭乗する。指揮は椅子に腰かけて行う。管弦楽は、左右対向配置であるのか?ヴァイオリンとヴィオラの区別がつきにくく判別できない。コントラバスは舞台下手側に位置する。

まずは「未完成」である。テンポは非常にゆっくりしている。第一楽章と第二楽章とのテンポの違いはあまりない。ブリュッヘンにとっては、Allegro moderatoとAndante con motoとの区別はどうでも良いもののようらしい。また、テンポ面でのメリハリはあまりつけていない。シューベルトの不器用な部分を裸にするような演奏でもある。

ヴィヴィッドさに欠けた演奏ではあるが、ゆっくりでなければ見えてこないものもあるとは思う。例えば、第一楽章主題展開部の終わりごろのティンパニの響きを挙げることができる。

あれだけ遅いテンポでタイミングを狂わさないで演奏する管楽セクションが凄いか。特に、第一楽章第一主題での、ホルンを異常に延ばした指揮者の意図を見事に表現していた。

休憩後の「スコットランド」は、玉石混淆の不思議な感じ。弦楽のメロディーの入りがモゾモゾして不明瞭な印象を受ける一方で、とてもニュアンスに満ちた演奏をする部分がある。断続的に表れる素晴らしい演奏をする所を評価する人たちには良いのかも知れないが、全体的な完成度と言う点では疑問点をつけざるを得ない演奏である。テンポの変化はあまりなく、要所でギアを入れ替えるような変化もない。

アンコールは、J.S.バッハのカンタータ第107番「汝何を悲しまんとするや」BWV107と、ヨーゼフ=シュトラウスのポルカ-マズルカ「とんぼ」op.204である。

この「とんぼ」だけは素晴らしく、ブリュッヘン指揮18世紀管弦楽団の日本に於ける最後の演奏にふさわしい演奏である。カルロス=クライバー指揮のような、キリッキリッと舞い上がる「とんぼ」では決してないけれど、優雅に舞う「とんぼ」で、現在のブリュッヘンにとっては、案外このようなヴィンナーワルツの方が向いているのではないかと思わせる意外な発見をもしてしまう。

3月30日、彩の国さいたま芸術劇場でのBCJ演奏会でもらったチラシをきっかけにして、引退間近のフランス=ブリュッヘンに対する好奇心、あるいは怖いもの見たさで行ってみたところであるが、総じて友人たちに勧められる演奏ではない。ゆっくりでなければ見えてこないものも確かにあるが、あまりに生気が感じられない。人間は変わっていくものだとは思うが、良く言えば「巨匠風」になってしまい、約20年前に購入したハイドン交響曲集のCDでは感じられる若々しさは、現在のブリュッヘンにはない。

ブリュッヘンに臨む観客は、百回に一回あるかないかのレベルで実に静かで、集中力のある聴き方をしていたが、終演後のスタンディング-オベーションには疑問を感じる。サイトウ-キネンで小澤信者が見せるのと同じような、実際の演奏の質とは関連性の薄い評価を観客の側が行うのは、望ましくない。いい所がある演奏ではあるが、優れた演奏と言えるかは疑問であり、ましてスタンディング-オベーションを行うほどの傑出した演奏であるとは決して言えない。それでも、あのような演奏が好みの人たちは確かにいて、熱心に聴いているのだから、私の度量が狭いだけなのかも知れないが・・・。