2016年4月16日土曜日

New National Theatre Tokyo, Opera ‘Werther’ review 新国立劇場 歌劇「ヴェルター」(ウェルテル) 感想

2016年4月16日 土曜日
Saturday 16th April 2016
新国立劇場 (東京)
New National Theatre Tokyo (Tokyo, Japan)

演目:
Jules Massenet: Opera ‘Werther'
ジュール=マスネ 歌劇「ヴェルター」(ウェルテル)

Werther: Dmitry Korchak (ディミトリー=コルチャック)
Charlotte: Elena Maximova (エレーナ=マクシモワ)
Albert: Adrian Eröd(アドリアン=エレート)
Sophie: Sunakawa Ryoko (砂川涼子)
le Bailli: Kubota Masumi (久保田真澄)
Schmidt: Murakami Kota (村上公太)
Johann: Mogiguchi Kenji (森口賢二)

Coro: New National Theatre Chorus (合唱:新国立劇場合唱団)
Coro dei bambini: Tokyo FM Boys Choir

Director: Nicolas Joel (演出:ニコラ=ジョエル)
Set design: Emmanuelle Favre(装置:エマニュエル=ファーヴル)
Costumes design: Katia Duflot (衣裳:カティア=デュフロ)
Lighting design: Vinicio Cheli (照明:ヴィニチオ=ケリ)
Stage Maneger: Onita Masahiko (舞台監督:大仁田雅彦)

orchestra: Tokyo Philharmonic Orchestra (管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団)
maestro del Coro: Misawa Fminori (合唱指導:三澤洋史)
direttore: Emmanuel Plasson (指揮:エマニュエル=プラッソン)

新国立劇場は、2016年4月3日から4月16日までの日程で、ジュール=マスネ歌劇「ヴェルター」を5公演開催した。この評は2016年4月16日に催された第五回目千秋楽の公演に対するものである。

当初予定されていた、指揮のマルコ=アルミリアート・ミシェル=プラッソン、ベアトリス役のマルチェッロ=ジョルダーニは、負傷・病気のため降板した。

着席位置は一階前方やや下手側である。観客の入りは9割ほどか。観客の鑑賞態度は、概ね極めて良好だった。

舞台は伝統的なものであり、衣装を含めて前衛的な要素は特段ない、正統的なものだ。背景の映像はプロジェクターを用いたものと思われるが、事前に新国立劇場会員誌「テアトレ」で予告された背景映像とは異なったものとなったのは残念だ。

ソリストの出来について述べる。

Werther役の Dmitry Korchak は、第一幕、第三幕オシアンの詩の朗読の場面、Charlotte 役の Elena Maximova は第三幕のWertherとの場面が特に素晴らしい。Albert 役の Adrian Eröd は全般に渡り期待する水準を満たし、Sophie 役の 砂川涼子 も特に第三幕での Charlotte との場面は素晴らしく健闘した。

管弦楽は東京フィルハーモニー交響楽団であったが、バレエ公演でこのくらい元気良く上手に演奏してくれたらと思える程ではあるが、歌劇公演としての演奏のあり方としては疑問を持たざるを得ない箇所も見受けられた。演奏のあり方が、タケミツメモリアルでの演奏会のようだった。

特に第一幕・第二幕で、管楽の無神経な響きによって歌が損なわれた。歌の響きに対してどのような響きで対処するかが見えていない。これは各奏者が考えるべき点か、指揮者の無能ぶりにより齎された点かは不明である。

第一幕終盤シャルロッテとヴェルターの段は、もう少し考えるべきだろう。

特に第二幕では、管弦楽をなくして、歌い手のアカペラだけでやった方がマシと思える程だ。歌が綺麗に響く時は、ピットからの音がない時だったり、教会から漏れ伝わる弱いオルガンの音の場面だったりした。

歌の個別が良くても、管弦楽個別が良くても、なんとなくシックリ来ない感じが強い。全体的な響きの組み立てがうまくいっていない。

今日わかった事は、新国立劇場はピットからの音がかなり大きく響き渡り、その結果、歌い手が爆音量対応で無ければ管弦楽に負けてしまう点である。地元の まつもと市民芸術館 では、管弦楽はうまい具合にすっぽ抜けた響きとなり、結果的に歌が活きてくるが、新国立劇場ではそうならない。新国立劇場の音響は、バレエ公演向けとしては抜群に素晴らしいが、オペラ公演としてはダメダメの部類だろう。

オペラに関して、二国問題の勝者はいなかった。佐々木忠次の狂気じみた2000席超構想をぶっ潰したのは良かったとして、現状の1814席は誰得だったのだろう。過剰に響く管弦楽により歌い手に爆音量を要求する劇場となってしまった。1000席前後の規模にし、オケを室内管弦楽団の規模として座付きとしていれば、砂川涼子や Elena Maximova の歌が活きた場面はもっとたくさんあったのではないだろうか。新国立劇場設立のグランド-デザインが誤っていた事については、日本の音楽界を挙げた反省が必要かと思われる。