2016年4月24日日曜日

原田靖子(松本市音楽文化ホール専属オルガニスト) + 蓼沼雅紀 + サクソフォン-カルテット ギャルソン 演奏会感想

2016年4月24日 日曜日
松本市音楽文化ホール (長野県松本市)

曲目:
ヨハン=セバスティアン=バッハ:パッサカリア BWV582
作者不詳:グリーンスリーヴス変奏曲
ヤン=ピーテルスゾーンス=ウェーリンク:「われ汝に呼ばれる、主イエス=キリストよ」
ウラディミール=ヴァヴィロフ:「アヴェ=マリア」(いわゆる「カッチーニのアヴェ=マリア」)
(休憩)
ヨハン=セバスティアン=バッハ:フーガ BWV578 (サクソフォン=カルテットとオルガンのために編曲:大場陽子)
長生淳:彗星(トルヴェールの「惑星」より)
天野正道:セカンド-バトル
バルバラ=トンプソン:サクソフォン四重奏とオルガンのための協奏曲「蜃気楼」(第一楽章・第三楽章・第四楽章)(日本初演)

オルガン:原田靖子(松本市音楽文化ホール専属オルガニスト)
サクソフォン=カルテット:ギャルソン
 ソプラノ=サクソフォン:蓼沼雅紀(ソリスト)
 アルト=サクソフォン:細川紘希
 テナー=サクソフォン:完戸吉由希
 バリトン=サクソフォン:大坪俊樹

松本市音楽文化ホールは、「The Harmonu Hall Organ Concert series ~若手サクソフォン奏者と共に~」「人類史上『最古の鍵盤楽器』と『最新の管楽器』が恋に落ちて」のタイトルで、専属オルガニストである原田靖子と 蓼沼雅紀 + サクソフォン-カルテット ギャルソンの共演による演奏会を、2016年4月24日に開催した。

着席位置は後方上手側、観客の入り具合は六割程か。観客の鑑賞態度は、細かなノイズが時折見受けられたが、概ね良好であった。

私自身が少し疲れていたこともあり、第一曲目では照明・オルガンとも気持ちよくなってしまい、夢見心地な状態にあったところもあったが、オルガンとサクソフォンとの共演という冒険的な試みは成功したと言って良い。

やはり白眉は、最後のバルバラ=トンプソンの「蜃気楼」であった。精緻に演奏され、オルガンとサクソフォンとが見事にブレンドされ、サクソフォンカルテットの四人だけでなく、オルガンを含めて五人の奏者全体での一体感が感じられた。松本市音楽文化ホールの豊かな残響を巧みに味方につけ、日本初演を立派に果たした。

このような作品を演奏するに適したホールは、オルガンがあり、かつ残響が豊かな中規模ホールとなるが、松本市音楽文化ホールの他、サラマンカホール(岐阜市)、豊田市コンサートホール、福島市音楽堂くらいしか適したホールが日本にはない。その中で、松本市音楽文化ホールで日本初演を実現できたのは、やはり専属オルガニストである原田靖子による企画力の賜物であろう。きちんとした箱と、きちんとした運営によって、この日本初演が松本市で実現した。人口20万人規模の地方都市のホールでも、やれることはたくさんあるのだと認識した。第二楽章が省略されなければ、全曲での日本初演が実現できたところであり、この点だけが残念である。

このような現代音楽をしれっと地方都市の観客に受け入れさせるためなのか?その前に「セカンド-バトル」という非常に楽しい曲を持ってきた。四人の奏者が客席に降りてきて、空席に図々しく座って演奏するなど、かなりポピュラー色の高い曲目だ。観客の反応も良い。奏者が客席のどこにいても、舞台上での演奏と全く同じ響きで聴こえてくるところに、松本市音楽文化ホールの凄さがある。演奏も、残響が長いからこそ重要となる精緻さを伴ったもので、観客を乗せて盛り上げただけでなく、非常に充実した状態で「蜃気楼」に持ち込める状態を作った。

にしても、やはり日本初演というのは重要だ。200年前の作品を再現させるだけでなく、現代に生きる作曲家の作品を紹介するのは演奏者の重要な使命の一つだと思うが、オルガンとサクソフォンとの珍しい組み合わせの曲を紹介したのは、本当に有意義な事である。松本市音楽文化ホールが続けてきた、専属オルガニスト制度が活かされた公演であった。箱を作るだけではない音楽堂のあるべき姿の事例を示したものである。

アンコールは、村松嵩継の「彼方の光」であった。