2015年8月27日木曜日

Saito Kinen Festival Matsumoto 2015, Opera ‘Béatrice et Bénédict’ review サイトウ-キネン-フェスティバル 歌劇「ベアトリスとベネディクト」 感想

2015年8月27日 木曜日
Thursday 27th August 2015
まつもと市民芸術館 (長野県松本市)
Matsumoto Performing Arts Centre (Matsumoto, Japan)

演目:
Hector Berlioz: Opera ‘Béatrice et Bénédict’
エクトル=ベルリオーズ 歌劇「ベアトリスとベネディクト」

Beatrice: Marie Lenormand (マリー=ルノルマン)
Benedict: Jean-François Borras (ジャン-フランソワ=ボラス)
Hero: Lydia Teuscher (リディア=トイシャー)
Claudio: Edwin Crossley-Mercer (エドウィン=クロスリー-マーサー)
Don Pedro: Paul Gay (ポール=ガイ)
Somarone: Jean-Philippe Lafont (ジャン-フィリップ=ラフォン)
Ursule: Karen Cargill (キャレン=カーギル)
Leonato: Christian Gonon (クリスティアン=ゴノン)
A Messenger / Notary: Vincent Joncquez (ヴァンサン=ジョンケ)

Coro: Saito Kinen Festival Matsumoto Chorus (合唱:サイトウ-キネン-フェスティバル松本合唱団)

Director: Côme de Bellescize (演出:コム=ドゥ-ベルシーズ)
Set design: Sigolène de Chassy(装置:シゴレーヌ=ドゥ-シャシィ)
Costumes design: Colombe Lauriot-Prévost (衣裳:コロンブ=ロリオ-プレヴォ)
Lighting design: Thomas Costerg (照明:トマ=コステール)
Video Images: Ishrann Silgidjian (映像:イシュラン=シルギジアン)

orchestra: Saito Kinen Orchestra (管弦楽:サイトウ-キネン-オーケストラ)
direttore: Gil Rose (指揮:ギル=ローズ)

サイトウ-キネン-フェスティバル実行委員会は、2015年8月24日から8月29日までの日程で、エクトル=ベルリオーズ歌劇「ベアトリスとベネディクト」を、まつもと市民芸術館にて3公演上演する。この評は2015年8月27日に催された第二回目の公演に対するものである。

当初予定されていた、指揮の小澤征爾(Ozawa Seiji)、ベアトリス役のVirginie Verrez(ヴィルジニー=ヴェレーズ)は、それぞれ負傷・病気のため降板した。

着席位置は一階最前方ほぼ中央である。チケットはこの日の公演のみ当日券発売をしており、当日券対応となる。サイトウ-キネン-フェスティバルが主催者も観客も小澤征爾頼みであることを反映している。小澤征爾が引退した時に、サイトウ-キネン-フェスティバルはなくなる見解に変わりはない。観客の鑑賞態度は良好であった。

舞台は伝統的なものであり、衣装を含めて前衛的な要素は何一つない、正統的なものだ。昨年同様に、舞台で観客の目を眩ます事はせず、音のみで勝負する形態である。但し、照明・映像を用い方については効果的で、朝から夜までの時間を的確に舞台上に表出している。下手側に、中央から上手側からしか見れない視覚となる箇所にも舞台はあるが、基本的に物語の中心となる部分がその箇所で演じられる事はなく、背景として用いられている。

ソリストの出来について述べる。

主要ソリストは、ベアトリス役のマリー=ルノルマン以外全てが素晴らしい。

エロー役のリディア=トイシャーは、見栄えも声も可憐で、第一幕の装飾音から決めてくる。リディア=トイシャーとウルスル役キャレン=カーギルによる、第一幕終盤の二重唱は完璧な繊細さを伴う響きで表現される。管弦楽の見事な弱奏に支えられた夢見るような時間だ。

楽団指揮者ソマローネ役のジャン-フィリップ=ラフォンは傑出した素晴らしさである。圧倒的な声量と諧謔に満ちた演技で、強烈なアクセントを添えるあの最強合唱団との掛け合いも傑出していた。

ベネディクト役のジャン-フランソワ=ポラスも、主役の一人として、確実な声量を伴いつつ、よく通る声で圧倒した。あの声で口説かれたら、女性たちはメロメロだろう♪

ベアトリス役のマリー=ルノルマンは、カルメンのような強烈な女が「愛の犠牲者」になるところが肝であるので、何よりもパワーが必要となるが、その点に欠けていた。急遽降板した歌い手の代役であり、しょうがないかという感じだ。

次に、合唱について述べる。

第一幕では、合唱団の練習風景も素晴らしい。声量は圧倒的で、音程が合っているような違っているような、上手いのか下手なのか分からない合唱が面白い。

第二幕では、酔っ払った場面の弾けぶりから凄過ぎで、合唱団の方々の飲み会の騒がしさを想像するに、恐ろしい気持ちになる程である。

一方で、バンダで結婚のお誘いをする場面は、静かな歓びに満ちた、繊細な表現に転ずる。

最後の最強唱も素晴らしい完成度で、これ以上は望めない。ベアトリスとベネディクトが結婚を決意した際の、はやし立てる「ヒュー」もお見事である。

管弦楽について述べる。

管弦楽は実に的確な響きで基盤を構築する。この場面ではこの響きと、求められている響きが見事に実現される。弱奏部が繊細でありながら確実に響き、ギターの箇所や第一幕終盤の二重唱で、見事に活きる。サイトウ-キネン-オーケストラの実力はもちろんのこと、指揮を担当したギル=ローズの構成力の賜物だ。

総合して、サイトウ-キネン-フェスティバルに相応しい素晴らしい水準である。日本で望み得る最高の出来で、歌い手・管弦楽・指揮者が三位一体となって、この まつもと市民芸術館 の素晴らしいインフラの上に、結実させたと言える。

幸せな高揚感で劇場を後にする「ベアトリスとベネディクト」であった。