2013年8月28日 水曜日
まつもと市民芸術館 (長野県松本市)
演目:
モーリス=ラヴェル 「こどもと魔法」
(休憩)
モーリス=ラヴェル 「スペインの時」
「こどもと魔法」
こども:イザベル=レナード
肘掛椅子・木:ポール=ガイ
母親・中国茶碗・とんぼ:イヴォンヌ=ネフ
火・お姫様・うぐいす:アナ=クリスティ
雌猫・りす:マリー=ルノルマン
大時計・雄猫:エリオット=マドア
小さな老人・雨蛙・ティーポット:ジャン-ポール=フーシェクール
安楽椅子・こうもり:藤谷佳奈枝
合唱:サイトウ-キネン-フェスティバル松本合唱団・サイトウ-キネン-フェスティバル松本児童合唱団
演出:ロラン=ペリー
装置:バーバラ=デリンバーグ
衣装:ロラン=ペリー・ジャン-ジャック=デルモット
照明:ジョエル=アダン
管弦楽:サイトウ-キネン-オーケストラ(SKO)
指揮:小澤征爾 ピエール=ヴァレー
「スペインの時」
コンセプシオン(時計屋の女房):イザベル=レナード
ラミロ(ロバ引き):エリオット=マドア
トルケマダ(時計屋):ジャン-ポール=フーシェクール
ゴンザルヴ(詩人気取りの学生):デイビット=ポーティロ
ドン・イニーゴ・ゴメス(銀行家):ポール=ガイ
演出:ロラン=ペリー
装置:キャロリーヌ=ジネ(オリジナルデザイン:キャロリーヌ=ジネ・フロランス=エヴラール
衣装:ロラン=ペリー・ジャン-ジャック=デルモット
照明:ジョエル=アダン
管弦楽:サイトウ-キネン-オーケストラ(SKO)
指揮:ステファヌ=ドゥネーヴ
サイトウ-キネン-フェスティバル松本は、今年は8月12日から9月7日までの日程で、歌劇・演奏会・劇音楽が開催される。歌劇公演は、8月23日から8月31日までの間、計4公演に渡って繰り広げられる。この評は、第三回目8月28日の公演に対するものである。
今回の公演は、モーリス=ラヴェルの短めな歌劇を二演目上演する。休憩前が「子どもと魔法」、休憩後が「スペインの時」である。なお、これらの歌劇は、グラインドボーン音楽祭との共同制作による。
着席位置は三階上手側前方、9割5分の入りである。おそらく追加発売された席の中で売れなかった席があったものと思われ、特に三階・四階下手側側方席は空席が目立つ。
休憩前の前半は、小澤征爾指揮の「こどもと魔法」である。懸念されていた小澤征爾の降板はなく、その他の配役も全て当初の予定通りである。
私は歌い手に対しては、協奏曲に於けるソリストのような役割を求めるが、このような響きを求める私にとっては、必ずしも全てに賛同できる演奏ではない。しかしながら、総じて歌い手と管弦楽とが溶け合った響きを随所に見せ、2010年頃までのサイトウ-キネン-フェスティバルの歌劇で見せつけられたような、歌い手と管弦楽とが融合せずにバラバラに歌い演奏している点は、限定されており、許容できる内容である。
主役のイザベル=レナードの出来は、一応合格点を与えることができる出来である。同じ歌い手が複数の役を演じるため、歌い手と登場人物との関係を掴むのに苦労させられるが、それでも中国茶碗のイヴォンヌ=ネフ、雌猫のマリー=ルノルマン、安楽椅子の藤谷佳奈枝が印象に残る。
管弦楽はラヴェルが意図した多様な響きを、明瞭かつ精緻さをもって再現し魅了させられる。特に第二場前半の群舞のシーンが印象的で、小澤征爾の数少ない名演である、水戸室内管弦楽団との「マ-メール-ロア」のライブを思い出すほどだ。
休憩後の後半は「スペインの時」で指揮はステファヌ=ドゥネーヴとなる。これも当初の予定通りである。
舞台芸術等視覚的な部分は見事に出来ており、五人の歌い手の演劇的な要素は良く考えられている。しかしながら、音楽的な要素では、歌い手と管弦楽の統一感がなく、時計屋の主人役であるジャン-ポール=フーシェクール以外の男の歌い手も声量不足で、何を考えているか分からないものである。山田和樹と出会う前の、サイトウ-キネンのオペラを思い起こさせる、ひどい出来だ。ペネロペ=クルスを思わせる印象を与えるイザベル=レナードは、かろうじて主役としての役割を演じることが出来ているか。
天皇皇后両陛下が「スペインの時」を観劇せずに退席したのは当然の出来で、これはパンティ脱ぎ捨てシーンを皇族に見せるわけにはいかないという、訳のわからない配慮以前の問題で、純音楽的な問題としてそこまでの水準に達していなかった。
小澤征爾は一応復活したが、サイトウ-キネン-フェスティバルの歌劇の水準としては、例年より少し優れているといったところであろうか。