2013年8月25日日曜日

菊池洋子 ピアノ-リサイタル 評

2013年8月25日 日曜日
軽井沢大賀ホール (長野県北佐久郡軽井沢町)

曲目:
ヴォルフガング=アマデウス=モーツアルト:ロンド K.485
ヴォルフガング=アマデウス=モーツアルト:ピアノ-ソナタ 「トルコ行進曲付き」 K.331
(休憩)
モーリス=ラヴェル:水の戯れ 
モーリス=ラヴェル:ソナチネ
クロード=ドビュッシー:亜麻色の髪の乙女 
クロード=ドビュッシー:アラベスク第1番 
フレデリック=ショパン:エオリアンハープ 
リスト=フェレンツ:愛の夢第3番 
フレデリック=ショパン:バラード第1番 
フレデリック=ショパン:ポロネーズ第6番「英雄」

ピアノ:菊池洋子

着席場所は、中央後方やや上手側である。客の入りは7割程である。舞台上手側の平土間と二階席に、特に空席が目立った。ピアノの音って、上手側に飛んでいくみたいだけど、視覚面が重視されるのか。

今日の菊池洋子の衣装は、何とも名状し難い上品な青色系統のロングドレス、私の携帯電話にある色見本アプリで、「新橋色」を濃くしたような色である。背は高く、諏訪内晶子のような髪型で、三割ほどの髪を体の左前に持ってくる。スラっとした体格で、モデルとして紹介されたら誰もが信じてしまう程の美しさだ。実際写真よりも綺麗な女性である。

前半はモーツァルトが二曲である。ロンドK.485は速めのテンポであるが、ちょっとついていけない感じで、やや単調である。

モーツァルトについては、二曲目のピアノ-ソナタK.331の方が断然良い出来だ。冒頭は遅めのテンポで始まり、そのテンポを揺るがせて観客の心を掴む。変奏曲の性格を持つこの曲らしく、それぞれのバリエーションでそのバリエーションに沿った表現で多彩な性格を浮き彫りにする。変奏部に入ると、一見あまり独自色を出さないように思わせて置きながら、意外なところで個性を出している演奏だ。

わずか30分ほどで休憩に入る。

休憩後はラヴェル・ドビュッシー・ショパン・リストの名曲集の構成となる。菊池洋子自身がマイクを持って、曲の案内をして二曲ずつ演奏をしていくスタイルだ。

ラヴェル・ドビュッシーでは、モーツァルトよりも完成度の高い、明晰度の高い演奏だ。音の響きが前半とは打って変わってクリアになったように思える。抑揚やテンポの扱いは、おそらく楽譜に書かれた通りで独自にいじったりはせず、ラヴェル・ドビュッシーの才能をそのまま再現するかのような演奏である。

彼女は2002年モーツァルト国際コンクールに優勝したようであるが、そのチラシでの宣伝文句とは裏腹に、実は一番得意な分野はフランス音楽かと思わせるかのようだ。彼女のセンスと相性がピッタリあっているように感じられる。

ショパンの「エオリアンハープ」とリストの「愛の夢」第3番は、連続して演奏だ。予め、同じ調性の曲であり、拍手なしで連続して演奏すると雰囲気が醸し出せる旨説明をして、演奏に入る。この二曲も、曲の持ち味をそのまま活かした演奏で、違う作曲家でありながら連続した演奏をする事により、これほどまで味わい深い流れになるのかと思い知らされる。

最後の二曲は、ショパンのバラード1番と英雄ポロネーズである。マイクによる説明なしで演奏が開始される。ここでまた彼女の音作りに変化が生じ、独自のパッションを効かせ始める。バラードの方では、速く演奏する部分で若干荒さがあるが、英雄ポロネーズでは実によく考えられた展開だ。大抵の演奏で強調してるところを敢えて弱めに引き、彼女が独自に本当に強調したいところで一気に攻勢を掛け、コントラストを引き立たせる。かなり冒険的なアプローチであり、この点で好みが別れるのだろうけど、私にとっては興味深い展開だ。

アンコールは、ショパンのノクターンと、アルベニスのタンゴであった。

それにしても、10月26日小金井市民交流センターでの演奏会のチラシがプログラムに挟み込まれていて、これには「モーツァルトの使徒—清澄かつ華麗なる響きをもつ正統派」などと、まあ凄いコピーが入っているが、これはちょっと誤解を与えるのではないかなと思う。私は横で見物していただけだが、サイン会はかなり早く始まり、異例な程丁寧な交流をされているのが印象的であった。