2013年8月27日火曜日

サイトウ-キネン-フェスティバル 室内楽演奏会「ふれあいコンサート2」 評

2013年8月27日 火曜日
松本市音楽文化ホール (長野県松本市)

曲目:
ヴォルフガング=アマデウス=モーツァルト ピアノ三重奏曲第3番 K.502
クロード=ドビュッシー フルートとヴィオラ、ハープのためのソナタ
(休憩)
アントニーン=ドヴォルジャーク ピアノ五重奏曲 op.81 B.155

ヴァイオリン:原田幸一郎・渡辺實和子
ヴィオラ:今井信子
ヴァイオリン-チェロ:原田禎夫
フルート:セヴァスチャン=ジャコー
ハープ:吉野直子
ピアノ:野平一郎

着席場所は、後方上手側である。客の入りはほぼ満席である。

サイトウ-キネン-フェスティバル松本は、今年は8月12日から9月7日までの日程で、歌劇・演奏会・劇音楽が開催される。このうち8月21日から8月30日までの間、「ふれあいコンサート」という名の室内楽演奏会が、それぞれ奏者・プログラムを変え計3公演に渡って繰り広げられる。この評は、第二回目「ふれあいコンサート2」に対するものである。

第一曲目、モーツァルトのピアノ三重奏曲は、野平一郎のピアノのみを引き立たせたアプローチなのだろうか。ピアノは終始明瞭さを保った安定した響きでリードしている。それでも、ヴァイオリンの渡辺實和子は音量が小さく、パッションがあまり表出せず、音に明瞭さを感じない状態で、やや精彩を欠いていたように思える。

第一楽章冒頭部ではややチグハグな印象があったが、曲が進むにつれて溶け込むような響きを指向している部分が決まっているところでは、それなりに聴く事ができる出来になっている。

第二曲目、ドビュッシー「フルートとヴィオラ、ハープのためのソナタ」は最も完成度の高い出来で、ドビュッシーが楽譜で表現した内容を敢えていじらずに、作曲者の意図を見事に表現する演奏であると言えるだろうか。

フルートの安定感ある響きや、多くの音を出しながら意外に地味な役割に徹するハープはいずれも素晴らしいものであるが、特筆すべき点と言えば、やはりヴィオラの活躍であるだろう。

この曲は、ヴィオラが果たすべき責務が非常に大きい曲であるが、その求められている多彩な音色を、今井信子は見事に表現していく。ドビュッシーが意図した華やかな世界が再現され、観客はその世界に酔いしれる。この曲のヴィオラが今井信子であって良かったと思えるひと時だ。

休憩後、ドヴォルジャークのピアノ五重奏曲は、ピアノと第一ヴァイオリンの枢軸が機能し、要所でチェロ(原田禎夫)の低音が良く響く展開となる。ピアノの野平一郎は、第一曲目と同様安定感ある明瞭な美しい響きで、終始魅了させられる。一方で第一ヴァイオリンの原田幸一郎はパッションを込めてピアノとの対立軸を示し、演奏にアクセントをつける役割を果たしていく。この枢軸に他の三人を巻き込んで熱気あふれる演奏となる。精緻さよりはパッションの表出をやや優先させた印象が強い演奏であった。