2013年8月30日 金曜日
松本市音楽文化ホール (長野県松本市)
曲目:
ヴォルフガング=アマデウス=モーツァルト アダージョとロンド K.617
エリオット=カーター フルートとチェロのための「魔法を掛けられた前奏曲」
モーリス=ラヴェル(カルロス=サルセード編曲) ソナチネ (フルート・ハープ・チェロによる演奏)
(休憩)
ヴォルフガング=アマデウス=モーツァルト セレナード第11番 K.375
ヴィオラ:川本嘉子(第一曲目)
ヴァイオリン-チェロ:イズー=シュアー(前半全て)
フルート:ジャック=ズーン(前半全て・アンコール)
オーボエ:フィリップ=トーンドゥル(第四曲目)・マニュエル=ビルツ(第一曲目)・森枝繭子(第四曲目)
クラリネット:ウイリアム=ハジンズ・キャサリン=ハジンズ(いずれも第四曲目)
ファゴット:ロブ=ウイヤー・近藤一(いずれも第四曲目)
ホルン:ジュリア=パイラント・猶井正幸(いずれも第四曲目)
ハープ:吉野直子(第一曲目・第三曲目)
着席場所は、中央後方である。客の入りは9割程である。
サイトウ-キネン-フェスティバル松本は、今年は8月12日から9月7日までの日程で、歌劇・演奏会・劇音楽が開催される。このうち8月21日から8月30日までの間、「ふれあいコンサート」という名の室内楽演奏会が、それぞれ奏者・プログラムを変え計3公演に渡って繰り広げられる。この評は、第三回目「ふれあいコンサート3」に対するものである。
この演奏会には、ヴァイオリンはない。また、米国の現代音楽作曲家で昨年103歳で亡くなったエリオット=カーターが、1988年に作曲した作品も取り上げられる。
第一曲目、モーツァルトの「アダージョとロンド」は端正な演奏だ。アダージョは速度記号通り、ロンドはゆっくり目である。モーツァルトの曲想を率直に活かしている。
第二曲目、カーター「フルートとチェロのための『魔法を掛けられた前奏曲』」は、チェロのイズー=シュアのニュアンスに富んだ演奏が印象的だ。終盤に近づくにつれフルートも乗って来て、チェロとフルートとの相乗作用が効いた演奏である。
第三曲目、ラヴェルのソナチネは、さらに精緻な演奏となる。ラヴェルが書いた楽譜通りの意図を再現する方向性の演奏ではあるが、ジャック=ズーン、イズー=シュア、吉野直子のいずれもが、深くこの曲を理解し、三者の役割と相関性が活きた秀逸なる演奏である。この演奏会の白眉だ。
休憩後、モーツァルトのセレナード第11番は、出だしの響きこそ期待させるものであるが、あまりに音量が大きすぎて、私の聴覚の許容容量を超えている。演奏終了後三十分後でも、耳に痛みが残る演奏で、そもそも評価以前の演奏である。ここはすみだトリフォニーホールでもなければ、愛知県芸術劇場コンサートホールといった大ホールでは無いので、大管弦楽のノリとは違った、響きについての基本的な配慮が必要である。
予想外にアンコールが一つあり、シャルル=グノー作の「9つの管楽器のための小交響曲」より、第2楽章アンダンテ-カンタービレである。再びフルートが登場するが、そのジャック=ズーンのフルートがあまりに凄すぎる。モーツァルトのセレナードで暴走した他の奏者が同じように核分裂を引き起こしても、一人で合奏を破綻から救い、朗々と、安定感があって、それでいて歌うような、夢見るような、うっとりさせられるフルートを披露した。ジャック=ズーンのフルートで救われた演奏会であった。