2013年2月23日土曜日

NHK交響楽団 横浜公演 評

2013年2月23日 土曜日
横浜みなとみらいホール (神奈川県横浜市)

曲目:
リスト=フェレンツ 交響詩「前奏曲」 S.97/R.414
リスト=フェレンツ ピアノ協奏曲第1番 S.124/R.455
 (休憩)
シャルル=カミーユ=サン-サーンス 交響曲第3番 「オルガン付き」op.78

ピアノ:ヘルベルト=シュフ
オルガン:新山恵理
管弦楽:NHK交響楽団
指揮:準=メルクル

NHK交響楽団は、2013年2月20日から2月24日までにわたり、準=メルクルを指揮者に迎え、東京で二公演、横浜・名古屋で各一公演、同じ曲目にて演奏会を開催する。東京での二公演は第1750回NHK交響楽団定期演奏会として既に開催された。この評は、第三回目、2月23日に開催された横浜公演に対してのものである。

「前奏曲」が始まる。前日にグルノーブル-ルーブル宮音楽隊(MDLG)の演奏会を聴いたせいか、大管弦楽の精度と言うものはこの程度のものなのだなと、やはりどうしても思ってしまう。ミンコフスキとMDLGは罪深い♪

それでも、この「前奏曲」からして響きに色彩感が溢れているのはなぜだろう。何も知らずに聴いてみると、フランスの管弦楽団かと勘違いしてしまう程の色彩感だ。さすがは日本を代表するN響の力なのか、それともメルクル-マジックであるのか。

二曲目のピアノ協奏曲である。独奏はヘルベルト=シュフ。ピアノはまずは若干弱めで始まるが、シュフはだんだん興に乗り始め、即興的な危険な演奏を繰り広げていく。崩壊するかしないかのギリギリの線を攻めていき、大柄な体格だけど繊細そうな見掛け通りの、儚く危うい魅力に溢れた演奏だ。まさに天才肌の演奏である。この演奏を支えたメルクル+N響も素晴らしい。

シュフのアンコール曲は、リストの「ラ-カンパネラ」。どうも東京公演とは違ったアンコールだったようだ。ソロ演奏となって誰にも配慮する必要がなくなった事もあり、さらに危険度を増した峻烈な演奏だ。こういった危険な演奏をするピアニストは、私が知る限り日本人ではいないのだよなあ。

休憩後の三曲目、いよいよ「オルガン付き」である。横浜みなとみらいホールのオルガンは、米国マサチューセッツ州に本拠を置くC.B.フィスク社製である。この2013年に立教大学新座キャンパス聖パウロ礼拝堂に二台目のオルガンが導入されるまでは、日本で唯一のC.B.フィスク社のオルガンだ。歴史の浅い米国のオルガンは、どのような音がするのだろう。

第一部後半からオルガンが登場する。オルガンの響きは管弦楽と溶け合わせるようなアプローチを取っている。よってオルガンの音量は控えめであるが、フィスク社のオルガンの音色は極めて柔らかく、私の涙腺を共鳴させるものだ。この音色は反則である。泣き出しそうになるのを必死にこらえる。六日前の福井で、鈴木雅明の奴がシュッケ社のオルガンを硬質な響きで大きく響かせたのを思い出して、これとは対照的な柔らかな響きにちょっと感極まってしまったのだ。

歴史の浅い米国で、まるでオーストリアで制作されたかのような柔らかな響きを実現してしまった事に驚愕とさせられる。

一方、管弦楽も冒頭から精緻な演奏が始まる。オルガンのみを売り物とする演奏でなく、管弦楽自体が表現力がさらに増した演奏だ。管弦楽とオルガンとが対立的ではなく、あたかも一心同体のような響きになるよう、計算された見事な演奏である。

準=メルクルの指揮はエネルギッシュではあるがとても明晰な指揮をする。ミンコフスキにしろメルクルにしろ、完成度の高い演奏を仕掛ける指揮者の棒さばきは、無駄がない。

二月の土曜日に、必ず横浜みなとみらいホールに来るという偉業(?)は達成された。当面、みなとみらいに行く予定はない。この二月の演奏会に、なぜか幽霊は出なかったのはどうしてだろう。奏者の三メートル左から音が聞こえてくる、怪奇現象が起こるホールのはずだったのだが。N響は、やはり本拠地以外で聴くのがいいのだなあ。