2013年2月22日金曜日

グルノーブル-ルーブル宮音楽隊 東京公演 評

2013年2月22日 金曜日
東京オペラシティ タケミツメモリアル (東京)

曲目:
クリストフ=ヴィリバルト=グルック 「タウリスのイフィゲニア」序曲(ヴァーグナー編曲版)
フランツ=シューベルト 交響曲第7(8)番 「未完成」 D759
 (休憩)
ヴォルグガング=アマデウス=モーツァルト ミサ曲 K427

ソプラノ1:ディッテ=アンデルセン・マリア=サバスターノ
ソプラノ2:ブランディーネ=スタスキエヴィッチ・ポリネ=サバティエ
アルト:メロディ=ルヴィオ・オウェン=ヴィレットゥ
テノール:コリン=バルザー・マーニュ=スタフェルラン
バス:シャルル=デカイサ・ルカ=ティットート

管弦楽:グルノーブル-ルーブル宮音楽隊
指揮:マルク=ミンコフスキ

グルノーブル-ルーブル宮音楽隊(以下MDLG)は2013年2月22日・25日に東京で2公演、26日に金沢で1公演行う。この評は、2月22日東京オペラシティ タケミツメモリアルでの公演に対してのものである。

管弦楽は左右対向配置であり、弦楽は舞台下手から第一ヴァイオリン→ヴィオラ→ヴァイオリン-チェロ→第二ヴァイオリンと前方に並んでいる。コントラバスは舞台正面後方であり、他の弦楽パートと離れた異例の配置である。第一ヴァイオリンの数は10人であり、大管弦楽とは言い難いが、室内管弦楽よりは大きな規模である。その中間に位置する規模になるのだろうか。

第一曲目の「タウリスのイフィゲニア」序曲から、MDLGは飛ばし始める。ミンコフスキの意図を完璧に実現する。この「完璧」と言うのはまさしく「完璧」であり、ミンコフスキ的、あるいはMDLG的な「完璧」さと同義のものである。響きの調和と言う点で、一体どこの管弦楽団がこれほどまでの「完璧」さを実現できるのだろう。日本に於ける最も水準の高い水戸室内管弦楽団ですら、このような「完璧」さを実現させる事はできない。ただただ非常に美しい。

第二曲目の「未完成」は、第一曲目での「完璧」さを見せつけられると、やはり不完全燃焼と言わざるを得ない。木管パートに固さが見られ、音抜けこそないが音程がやや不安定な部分が見受けられた。木管ソロパートで、二回繰り返す中の一回目がどうもうまくいっていない印象だ。それでも、金管パートの響きは完璧であったし、弦楽器パートの出来も良い。響きについての考慮は為されていたのだろうが、実現レベルで完璧とまでは言っていない感じである。ヴィーンでのシューベルト全曲演奏会の動画を見たときの印象で期待していると、外れとは言えるが、全ての曲目を同じレベルで完璧にこなすのは、やはりなかなか難しいのか。後半には大曲が控えていたし。

ここで前半のアンコールが入り、シューベルトの交響曲第3番から第四楽章である。ちょっと微妙な感じである。私の心の中では、アレグロは求めていたけどプレストは求めていない。まあいいか、メインは後半のミサ曲K427だ。

後半のミサ曲 K427では、配置が変わる。舞台正面後方にいた四人のコントラバスは、二手に分かれて第一ヴァイオリン・第二ヴァイオリンの後方に二人づつ、左右対向の形で置かれ、空いたコントラバスのスペースに10人の歌い手が位置する。10人の歌い手は、区切れ毎にその配列を変えていく。ソロ(または二~三人での)パートを歌う場合には、正面一歩前に出て歌う形である。

曲が進むにつれて、興奮度が増していく演奏である。最大の理由としては、10人の歌い手それぞれのレベルが全て高い事がある。たった10人しかいないのに、あの巨大なタケミツメモリアルを、東京オペラシンガーズが歌っているかのように響かせる。あるいは、森麻季の調子の良い時のレベルを10人全てが保っている形だ。もちろん、10人の中でも差はあるのだが、85歩100歩レベルの違いであり、全てが高いレベルのいる中での程度の差に過ぎない。欧州に於ける、歌い手のレベルの高さや層の厚さを改めて思い知らされる。

管弦楽も「未完成」の時のような未完成な出来では全くない。第一曲目の序曲のような完璧さが戻っている。その完璧さで持って10人の歌い手を盛り上げていく。ミンコフスキの指揮も何かを指示しているというよりは、もっと上に上がっていこう、一緒に天上の世界に上がっていこうと言ったような指揮だ。歌い手・管弦楽・指揮、三つにして一つなるものが天国に行きたいと強く願う。完璧さに熱狂が伴う。高き場所にある栄光に向けて、全てが上に向かい出す。

私はタケミツメモリアルの観客席にいるのだろうか、と何度も疑う。私自身が天上の世界に向けて浮遊しているかのような気持ちにさせられるのだ。

Et incarnatus estでは、ソプラノ独唱が真ん中ではなく、同じく舞台下手側に位置した木管の近くに位置する。このソプラノの歌い手はディッテ=アンデルセンであろうか。タケミツメモリアルの響きを完璧に捉え味方につけ、傑出した歌声を披露する。ミサ曲を聴いているはずなのに、私の心の中の情熱を抑えがたい衝動に駆られる。ミサ曲なのに、オペラを聴いているかのように興奮している自身に罪の意識を覚えつつも、この内なる熱狂は頂点に達する。

何と申し上げたらよいのだろう、このような演奏を聴けるのは五年に一回あればいい方であろうか。

アンコールは同じミサ曲から「クレド」の中から、10人の歌い手・MDLG・ミンコフスキの全員で演奏する。まさしく完璧なアンコールの選曲だった。その日の晩、私の心は熱狂に支配され、全く寝付けなかった。この演奏会に参加できた歓びは、言葉で言い尽くせない。Gloria in excelsis Deo!!