2015年9月2日水曜日

Matthias Görne, Winterreise, recital review マティアス=ゲルネ 「冬の旅」 リサイタル 感想

2015年9月2日 水曜日
Wednesday 2nd September 2015
松本市音楽文化ホール (長野県松本市)
The Harmony Hall (Matsumoto Municipal Concert Hall) (Matsumoto, Japan)

曲目:
Franz Schubert: Winterreise D911 (冬の旅)

baritono: Matthias Görne / マティアス=ゲルネ
pianoforte: Markus Hinterhäuser / マルクス=ヒンターホイザー

サイトウ-キネン-フェスティバルは、今年も2015年8月9日から9月15日までに掛けて、松本市を中心に長野県内で歌劇・大管弦楽演奏会・室内楽演奏会・ジャズ演奏会・教育プログラムを繰り広げる。その一環として、9月2日にマティアス=ゲルネ 「冬の旅」リサイタルが、松本市音楽文化ホールにて上演された。

なお、「セイジ-オザワ松本フェスティバル」の名称は、そもそもその名称への変更自体に正当性がなく、松本市民の私としては承認できないため、今後も一切用いず、従前通り「サイトウ-キネン-フェスティバル」の名称を用いる。

着席位置は後方中央側、客席の入りは8割程であった。後方三列は殆ど当日券の枠となった。音響の良い後方席に空席が目立ったのは、主催者側の切符の売り方に問題があるのだろう。観客の鑑賞態度は、かなり良好であった。

序盤、松本市音楽文化ホールの響きに戸惑っているようにも思える。このホールでの弱唱部から強唱へ移り変わる場面でのコントロールはは難しそうであったが、5.菩提樹 辺りで弱唱部がよくなり、14. 霜おく頭 辺りからは松本市音楽文化ホールの響きを完全に会得し、盤石な出来で曲を終える。

14. 霜おく頭 からはピアノとの相性も格段に良くなり、そのまま終曲まで緊張感を保って行った。特に、21. 宿 23. 幻の太陽 は圧巻の響きであった。もちろん圧巻と言っても、大声量で圧倒したと言う意味ではない。弱唱の良く通る響きの美しさ、あらゆる声量の場面や声量が移り変わる場面での響きの完成度の高さと言う点で、圧倒したのだ。最後の24. 辻音楽師 が最高の出来だった事は言うまでもない。

私はゲルネが内省的だったのか、精神的だったのかは知らない。内省的やら精神的やら、私にとっては定義不明で意味不明の言葉だけれど、曲がその要素を求めているのであれば、響きになって出てくるものだと思っている。

その演奏がいい音楽か否かは、全て響きによって決定する。私にとって納得できる響きであれば、間違いなく素晴らしい演奏だ。響きが全てと書くと、外見ばかり拘っていると誤解する人もいるだろうが、そのような事はない。内面的な要素が仮に必要であれば、その要素も響きとなって出てくるからである。

マティアス=ゲルネの歌唱は、特に後半部分は、曲に対する深い理解に基づいて響きを形作っている。あれだけ弱い音量でありながら、陶酔して聴ける演奏は珍しい。また、マルクス=ヒンターホイザーのピアノも、前半は歌唱よりも響きがちな部分があったものの、後半はピッタリ寄り添っており、歌唱に入るまえのソロの部分の演奏も優れたものである。

総合的に素晴らしい演奏であり、決して盛り上がる性格の曲ではなかったが、暖かな長い拍手とともに、演奏会を終えた。