2015年2月15日日曜日

Orchestra Ensemble Kanazawa, Peer Gynt , the 361st Subscription Concert, review 第361回 オーケストラ-アンサンブル-金沢 定期演奏会 「ペール=ギュント」 評

2015年2月15日 日曜日
Sunday 15th February 2015
石川県立音楽堂 (石川県金沢市)
Ishikawa Ongakudo (Ishikawa Prefectural Concert Hall) (Kanazawa, Japan)

曲目:
Edvard Hagerup Grieg: Peer Gynt op.23 (ペール=ギュント)

Solveig: Tachikawa Kiyoko (soprano) (立川清子)
Peer Gynt : Takahashi Yosuke (baritono) (高橋洋介)
Anitra: Aida Masumi (mezzosoprano) (相田麻純)
Three Witches: Yoshida Waka, Shibata Sakiko, Hayashi Yoko (山の魔女たち:吉田和夏、柴田紗貴子、林よう子)
Thief and Receiver: Muramatsu Koya, Iguchi Toru (泥棒と密売人:村松恒矢、井口達)
narratore: Kazari Issei (語り:風李一成)
coro: Orchestra Ensemble Kanazawa Chorus (オーケストラ-アンサンブル-金沢合唱団)
orchestra: Orchestra Ensemble Kanazawa (OEK)(オーケストラ-アンサンブル-金沢)

maestro del Coro: Saikawa Yuki (合唱指導:犀川裕紀)
maestro dei solisti: Amanuma Yuuko (独唱指導:天沼裕子)
direttore: Kristjan Järvi (指揮:クリスティアン=ヤルヴィ)

オーケストラ-アンサンブル-金沢は、立川清子(ソプラノ)・高橋洋介(バリトン)・相田麻純(メゾソプラノ)等をソリストに迎えて、2015年2月15日に石川県立音楽堂で、グリーク作、劇音楽「ペール=ギュント」全曲演奏会を第361回定期演奏会として開催した。

管弦楽配置は、舞台下手側から、第一ヴァイオリン→第二ヴァイオリン→ヴァイオリン-チェロ→ヴィオラのモダン配置で、コントラバスはチェロの後方につく。兄パーヴォとは全く違う弦楽配置である。木管パートは後方中央、ホルンは後方下手側、他の金管は後方上手、ティンパニは後方上手、他のパーカッションは後方下手側の位置につく。歌い手はソリストを含め最後方中央、語り手のみ指揮者の横だ。

着席位置は一階正面中央上手側、客の入りは八割程であろうか、二階バルコニーに空席が目立ち、チケット完売には至らなかった。観客の鑑賞態度は、ごく少数の人たちによる鈴音やビニールの音によって、あまり良くない印象を持つ。なぜか、最も静謐な雰囲気を必要とする立川清子のソロがある場面で、雑音が目立った。特に最後の「ソルヴェイグの子守唄」では、一階後方上手側の観客が継続的にビニールの音を立て続けていた。また、演奏開始後・休憩後の演奏開始後、それぞれ数分から十分の間、天井からパチパチトタン屋根に雨が当たるような音が聞こえ、弱奏部でかなり雰囲気を阻害したのは残念である。

演奏について述べる。

クリスティアン=ヤルヴィは的確な構成力により、メリハリを効かせた演奏を実現させる。歌い手を優先させるところと、トゥッティで迫力ある演奏で攻めるところとの使い分けが見事だ。OEKの演奏も、クリスティアンの意図を反映させ、パッションを込めたり、精緻に演奏したり、強奏部も弱奏部も的確な響きでニュアンス豊かに演奏する。第二幕最後の、鐘の音のバンダの効果は大きいし、第四幕冒頭の「朝」のフルートも決まるし、クリスティアンはOEKの実力を十全に引き出す。さすがである。

歌い手については、やはりソルヴェイグ役の立川清子がダントツである。魑魅魍魎だらけの役の中で、ソルヴェイグだけが清楚な雰囲気を保つ異質な役であり、その成否がこの演奏会を大きく左右する一因となるプレッシャーが掛かるが、高いレベルでその責務を果たしている。石川県立音楽堂の響きをしっかり把握し、余裕を感じさせる声量がニュアンスを豊かにし、気品ある圧倒的な存在感を観客に示す。第四幕の「ソルヴェイグの歌」、第五幕最後の「ソルヴェイグの子守り歌」、いずれも大事な場面を決めていく。Brava!!

ソルヴェイグ役と山の魔女たち役の四人は、いずれも新国立劇場オペラ研修所の13・14
期生である。13期生の三人については、2013年7月にPMFガラコンサートでも聴いたが、その時も立川清子が二歩抜きんでていた。若手の歌い手が育ちつつあるのは嬉しいことである。

ペール=ギュント役の高橋洋介は、後半が好調で素晴らしい。他のソリストも良い出来で、穴がなかったように思える。第五幕に於ける合唱団も見事だ。「ソルヴェイグの子守り歌」のバンダの弱唱が実に効果的である。

重ねて言及するが、クリスティアンとOEKの管弦楽による歌い手のサポートは実に素晴らしい。一つ例を挙げれば、あの立川清子のソルヴェイグのソロの活かし方だ。指揮・管弦楽・歌い手・語り手全てがうまく絡み合い、総力を挙げて見事な「ペール=ギュント」を描き出した、演奏会であった。