2015年2月28日土曜日

Orchestre National du Capitole de Toulouse, Nagoya performance, review トゥールーズ-キャピトル国立管弦楽団 名古屋公演 評

2015年2月28日 土曜日
Saturday 28th February 2015
愛知県芸術劇場 コンサートホール (愛知県名古屋市)
Aichi Prefectural Art Theater Concert Hall (Nagoya, Japan)

曲目:
Frédéric Chopin: Concerto per pianoforte e orchestra n.1 op.11
(休憩)
Николай Римский-Корсаков / Nikolai Rimsky-Korsakov: suite sinfonica 'Shahrazād' op.35 (シェエラザード)

pianoforte: Юлианна Андреевна Авдеева / Yulianna Avdeeva / ユリアンナ=アヴデーエワ
orchestra: Orchestre National du Capitole de Toulouse (トゥールーズ-キャピトル国立管弦楽団)
direttore: Сохиты Таймуразы фырт Тугъан / Tugan Sokhiev / トゥガン=ソヒエフ

トゥールーズ-キャピトル国立管弦楽団は、ユリアンナ=アヴデーエワをソリストに迎え、音楽監督であるトゥガン=ソヒエフの指揮の下、来日公演を行っている。2015年2月20日から3月2日まで、大阪・東京・広島・福岡・金沢・名古屋・仙台・川崎にて計8公演の日程である。

この評は、六回目の名古屋公演に対してのものである。

管弦楽配置は、舞台下手側から、第一ヴァイオリン→第二ヴァイオリン→ヴァイオリン-チェロ→ヴィオラのモダン配置で、コントラバスはチェロの後方につく。ハープは下手側に置かれている。

着席位置は二階中央上手側、客の入りは7割位か。二階バルコニー・三階席に空席が目立つ。観客の鑑賞態度は、前半部にビニールのおとを鳴らしていた人物がいた以外は、良好であった。

前半はユリアンナ=アヴデーエワのピアノは繊細かつ品のある演奏である。テンポはやや遅めであり、一音一音を掘り起こす意図もあるのだろう。感情は抑制的で、知的なアプローチで、マリア=ジョアウ=ピレシュと似ているか否かは知らないが、文字に書き起こして見ると似ているのかもしれない。響きは違うと思うけど。いずれにしても、Brava!

ユリアンナのリサイタルを聴くとするならば、600-800席クラスの中規模ホールで聴きたい。繊細さで攻めるタイプなので、大ホールでは基本的に無理がある。

一方で、ユリアンナと管弦楽とのコンビネーションの点では、検討不足と感じられる所がある。ユリアンナが繊細に弾いている所で、第一楽章でのあのホルンの出しゃばったソロはどうなのか?ここのホルンも繊細な響きを志向し、うまくサポートしてユリアンナとの統一感を感じさせる響きを実現して欲しかった。

後半は「シェエラザード」。ベルリン-フィル級の個人技で攻める方向ではないものの、全体としての完成度は高い。弦は、低弦に注目させられ、第一・第二楽章での精緻かつ迫力あるコントラバスに耳を奪われる。また、全般的にチェロのソロが素晴らしい。

第二楽章では、オーボエ→クラリネットと続くソロが、最高に素晴らしい。個人技を見せつけた、後半部の白眉である。奏者の自発性溢れるニュアンスも込められ、これ以上何を求めようか?

弦楽は第三楽章が良かった。第四楽章は、愛知芸文で大管弦楽を聴く醍醐味を感じさせる完成度の高い出来で、難破する場面でテンポをタメる小技の相乗効果も、見事に決まっていた。

ソヒエフの指揮は、奇を衒う所はなく、テンポを一瞬遅くする小技を何箇所か使う程度であるが、やり過ぎないので、実に効果的なアクセントとなる。ソヒエフならではのオケの構築力を感じさせる演奏会であった。

アンコールは、ユリアンナのソリスト-アンコールは、ショパンのワルツop.42、終了時は二曲あり、ビゼー歌劇「カルメン」から第三幕への間奏曲と、チャイコフスキーのバレエ「くるみ割り人形」からトレパックであった。

2015年2月22日日曜日

National Ballet of Japan ‘la Bayadère’ (February 2015) review 新国立劇場バレエ団「ラ-バヤデール」(2015年2月) 評

新国立劇場バレエ団「ラ-バヤデール」(2015年2月) 評 

2015年2月22日 日曜日
Sunday 22nd February 2015

新国立劇場(東京)
New National Theatre, Tokyo (NNTT) (Tokyo, Japan)

compagnia di balletto: National Ballet of Japan (新国立劇場バレエ団)

Nikiya: Yonezawa Yui (米沢唯)
Solor: Fukuoka Yudai (福岡雄大)
Gamzatti: Nagata Kayo (長田佳世)
Bronze Idol: Okumura Kosuke (奥村康祐)

Music: Leon MINKUS
Music Arranged by: John LANCHBERY
Choreography: Marius PETIPA
Production: MAKI Asami (牧阿佐美)

orchestra: Tokyo Symphony Orchestra (東京交響楽団)
direttore: Олексій Баклан/ Alexei BAKLAN (指揮:アレクセイ=バクラン)

新国立劇場バレエ団は、2月17日から2月22日までに‘la Bayadère’を計4公演、新国立劇場で上演する。

この評は、千秋楽2月22日の公演に対するものである。

着席位置は前方やや上手側。観客の入りはほぼ満席である。観客の鑑賞態度は、一階前方席で私語が若干あったものの、概ね極めて良好だった。

いつものように、贔屓にしている米沢唯ちゃんから。

本日は主役のニキヤ役、体調は万全ではなかったような気もするが(私が神経過敏だっただけで、妄想かも知れない)、それでも第一幕・第三幕は素晴らしい演技を披露した。技巧を披露する方向性ではなく、演技の完成度を高める方向性で攻めたように思える。

特に第一幕では、哀愁を帯びた演技で、緩徐なテンポ設定の下、ニュアンス豊かに踊る。逢瀬の場面でも、嬉しそうな要素は希薄で、むしろ、この恋が実りそうもない事を予感させるような、悲しい表情だ。身分違いの恋であり、心の奥底に破滅への不安がある、そのような心境を見事に表現している。第一幕は特に純ダンス技術的にも完璧で、物語に心を寄せる事が出来る。

一方、第三幕では完成度の高い演技の方向で、死の世界を強調するニキヤである。どこか冷たく美しい第三幕での唯ちゃんニキヤだ。

米沢唯ちゃんは、どちらかと言うと身体能力の高さが強調され、もちろんその点は最大の強みなのだろうけど、体調が仮に万全な状態で無かったのだとしても、ここまで演技を形にできる。もともとの身体能力が高いからなのだろう。今回の「ラ-バヤデール」で唯ちゃんは大化けしたような気がする。「白鳥の湖」の(オディール役だけでなく)オデット役も、これまで以上のレベルで魅せてくれるのではないかと、予感する。

ソロル役の福岡雄大さんは身体能力見せ付けの方に走ったような感もあるのは、私の気のせいか?私は男性ダンサーはろくすっぽ見ていないのだけれど(ごめんなさい)、しかし身体能力見せ付け系は、それはそれで私は好きである♪

今日は関西から大挙応援団が来ているからか、関西出身ダンサーへの声援が凄い♪

ガムザッティ役の長田佳世さんは、第二幕ニキヤのソロの場面で、ソロルは私のものよと見せ付けたりはしない感じである。佳世さんガムザッティは、一見怖いようだが根は悪人ではない感じで、「パゴダの王子」のエピーヌ皇后の時と同じ路線のような気がする。佳世さんは、不倫をしたら即バレるタイプで♪、悪事が露呈するとすぐ動揺するエピーヌ皇后だったけど、今回のガムザッティでも、悪人になり切れないような印象を与える点が共通しているような・・・。佳世さんはそんな風に悪役を表現したいのかな?私の妄想かもしれないが。

そんな佳世さんは、「ソロルは私のものよ♪」と見せ付ける唯ちゃんとは対照的な印象を持った。唯ちゃんは、自身が中央で踊っていない場合であっても仕掛けをする事があるけど、佳世さんはしないのだよな。本島美和さんはどうだったのだろう・・・。昨日やはり行くべきだった。

第三幕の「影の王国」、ソリスト三人で踊っている姿を見て一番好きなのは、細田千晶さん、指先まで綺麗に決まっている。

群舞は全般的に、2/19の時より精度が高く、完成度を増した印象を持つ。ジャンペの踊りで、特に感じる。なお、あきらにゃん好みの美貌の関晶帆さんは、うれしい事に群舞の前方に位置する時間が長めだ♪目の保養になるなあっと、晶帆たんばっかり見惚れているなんて事は、ないない(まあ、時間的な比率は2~3割程度、そのくらいの不真面目さは許してくださいな)♪♪

2月19日の公演と同じ総括となってしまうが、全体的にソリストもコールドも管弦楽も、士気の高さを感じさせる出来で、非常に高いレベルの舞台芸術を実現させた。特に群舞は、千秋楽で一気に進化した。たった四公演であるのが残念である。

2015年2月19日木曜日

National Ballet of Japan ‘la Bayadère’ (February 2015) review 新国立劇場バレエ団「ラ-バヤデール」(2015年2月) 評

2015年2月19日 木曜日
Thursday 19th February 2015

新国立劇場(東京)
New National Theatre, Tokyo (NNTT) (Tokyo, Japan)

compagnia di balletto: National Ballet of Japan (新国立劇場バレエ団)

Nikiya: ONO Ayako (小野絢子)
Solor: Вадим Мунтагиров / Vadim MUNTAGIROV (The Royal Ballet, Coventgarden)
Gamzatti: YONEZAWA Yui (米沢唯)
Bronze Idol: YAHATA Akimitsu (八幡顕光)

Music: Leon MINKUS
Music Arranged by: John LANCHBERY
Choreography: Marius PETIPA
Production: MAKI Asami (牧阿佐美)

orchestra: Tokyo Symphony Orchestra (東京交響楽団)
direttore: Олексій Баклан/ Alexei BAKLAN (指揮:アレクセイ=バクラン)

新国立劇場バレエ団は、2月17日から2月22日までに‘la Bayadère’を計4公演、新国立劇場で上演する。

この評は、二回目2月19日の公演に対するものである。

着席位置はかなり前方やや下手側。観客の入りはほぼ満席である。学校団体鑑賞があり女子中学生が多く鑑賞していたが、物音一つ立てず(夢中になったいか寝ていたかはともかく)鑑賞態度は非常に良好であった。きっと大部分はバレエの魅力を理解して帰途についたかと思われる。その他の客も、反応は平日マチネでもありシャイであったが、極めて良好だった。

まずは、あきらにゃんが贔屓にしている米沢唯ちゃんから♪

唯ちゃんはお嬢様顔だし、優しそうな顔をしているし、どう考えてもいい子にしか見えないし、悪い事なんて一切しません!って感じであるはずなのですけど・・・。

実は、唯ちゃん、カマトトぶっていただけだったらしい♪実に恐ろしいガムザッティである。気品あるお嬢様がその方面に走り出すと、じつに怖い。ソロルをみごと略奪して、第一幕の最後、唯ちゃんは勝ち誇った表情をしている。

第二幕はガムザッティが中心人物となり、唯ちゃんの見せ場が多い。いつも通り、唯ちゃんは盤石な出来である。リフトされても全くぶれないし、静止技も綺麗に決まっている。

ニキヤのソロの場面で、ソロルは私のものよ♪とニキヤに見せつける唯ちゃんの表情は最高の出来で、むひゃむひゃな気分になってくる。獲物を狙う蛇のような唯ちゃんの視線にドキッとしたり・・・。あんな感じで狙われたら、どうしよう・・・♪♪

大僧正役のマイレーン=トレウバエフは、ロシア人ならではの顔立ちを上手く活かして、嫉妬に燃える表情を的確に表す。

寺田亜沙子さんの「つぼの踊り」は、視線の使い方がとても可愛い!子役の二人の踊りも素晴らしい。

主役ニキヤ役の小野絢子さんは、第三幕が圧巻である。第三幕になってから技術的にもキレが出てきて完成度も高く、悲しみの表現は全幕通して万全であり、あれ以上のレベルのニキヤは、世界的レベルでも味わうのは難しいだろう!Brava!!

ソロル役の、ヴァディム=ムンタギロフは実に美しく、完成度高く踊る。「眠り」の時と同様に、ゲストとは思えないほど馴染んでいる。ノーブルな雰囲気は彼ならではのもので、金の力でコヴェントガーデンから引き抜くべきだ♪純ダンス的な美しさは惹きつけられるが、どう考えても王子様♪ソロルって戦士の設定だったっけ?の感じとはなる。まあ、戦士らしさが欲しかったら、ワイルドなダンサーをパリ国立歌劇場辺りから呼べよの話しになってしまうだろう。そもそも、ソロルは戦士でなく、王子様の設定であっても全く差し支えないのだとも思わせる。

群舞は、特に第三幕で、本当に素晴らしいものを見せてくれる!。あの坂を降りてくるシーンは、誰か一人でも緊張感が解けて場面を見失うと、致命傷となるし、時間的長さを含めると、群舞にとって最も難しいシーンの一つだろうなと思うが、時間的にも空間的にもキチッと合って精度が高く、美しく踊れている。もちろん、そのような技術的な精度だけではなく、その他の面でどのように言語化するべきかわからないのだけれど、新国立劇場バレエ団全体のレベルが高いのだなと思わせる。

指揮のバクランは管弦楽を巧みに導き、東京交響楽団は完成度の高い出来でこれに応える。東フィルの楽団員とは技術的レベルはもちろんのこと、士気が違うのだろう。もちろん、東京交響楽団の方が圧倒的に上だ。管楽は全般的にしっかり鳴らすし、弦楽ソロの完成度も高い。ミューザから離れて、このまま座付きオケになって欲しい。バレエは総合芸術、東フィルのように管弦楽が「義務で伴奏しに来た」ようでは困る。管弦楽は「伴奏」であってはならない。本気を出してくれないと、バレエは成立しない。

全体的にソリストもコールドも管弦楽も、士気の高さを感じさせる出来で、非常に高いレベルの舞台芸術を実現させた。たった四公演であるのが残念である。ソワレ、週末公演と比べると、平日マチネであり観客はおとなしめではあるが、それぞれの観客に感銘を与えることが出来た公演と確信している。

2015年2月15日日曜日

Orchestra Ensemble Kanazawa, Peer Gynt , the 361st Subscription Concert, review 第361回 オーケストラ-アンサンブル-金沢 定期演奏会 「ペール=ギュント」 評

2015年2月15日 日曜日
Sunday 15th February 2015
石川県立音楽堂 (石川県金沢市)
Ishikawa Ongakudo (Ishikawa Prefectural Concert Hall) (Kanazawa, Japan)

曲目:
Edvard Hagerup Grieg: Peer Gynt op.23 (ペール=ギュント)

Solveig: Tachikawa Kiyoko (soprano) (立川清子)
Peer Gynt : Takahashi Yosuke (baritono) (高橋洋介)
Anitra: Aida Masumi (mezzosoprano) (相田麻純)
Three Witches: Yoshida Waka, Shibata Sakiko, Hayashi Yoko (山の魔女たち:吉田和夏、柴田紗貴子、林よう子)
Thief and Receiver: Muramatsu Koya, Iguchi Toru (泥棒と密売人:村松恒矢、井口達)
narratore: Kazari Issei (語り:風李一成)
coro: Orchestra Ensemble Kanazawa Chorus (オーケストラ-アンサンブル-金沢合唱団)
orchestra: Orchestra Ensemble Kanazawa (OEK)(オーケストラ-アンサンブル-金沢)

maestro del Coro: Saikawa Yuki (合唱指導:犀川裕紀)
maestro dei solisti: Amanuma Yuuko (独唱指導:天沼裕子)
direttore: Kristjan Järvi (指揮:クリスティアン=ヤルヴィ)

オーケストラ-アンサンブル-金沢は、立川清子(ソプラノ)・高橋洋介(バリトン)・相田麻純(メゾソプラノ)等をソリストに迎えて、2015年2月15日に石川県立音楽堂で、グリーク作、劇音楽「ペール=ギュント」全曲演奏会を第361回定期演奏会として開催した。

管弦楽配置は、舞台下手側から、第一ヴァイオリン→第二ヴァイオリン→ヴァイオリン-チェロ→ヴィオラのモダン配置で、コントラバスはチェロの後方につく。兄パーヴォとは全く違う弦楽配置である。木管パートは後方中央、ホルンは後方下手側、他の金管は後方上手、ティンパニは後方上手、他のパーカッションは後方下手側の位置につく。歌い手はソリストを含め最後方中央、語り手のみ指揮者の横だ。

着席位置は一階正面中央上手側、客の入りは八割程であろうか、二階バルコニーに空席が目立ち、チケット完売には至らなかった。観客の鑑賞態度は、ごく少数の人たちによる鈴音やビニールの音によって、あまり良くない印象を持つ。なぜか、最も静謐な雰囲気を必要とする立川清子のソロがある場面で、雑音が目立った。特に最後の「ソルヴェイグの子守唄」では、一階後方上手側の観客が継続的にビニールの音を立て続けていた。また、演奏開始後・休憩後の演奏開始後、それぞれ数分から十分の間、天井からパチパチトタン屋根に雨が当たるような音が聞こえ、弱奏部でかなり雰囲気を阻害したのは残念である。

演奏について述べる。

クリスティアン=ヤルヴィは的確な構成力により、メリハリを効かせた演奏を実現させる。歌い手を優先させるところと、トゥッティで迫力ある演奏で攻めるところとの使い分けが見事だ。OEKの演奏も、クリスティアンの意図を反映させ、パッションを込めたり、精緻に演奏したり、強奏部も弱奏部も的確な響きでニュアンス豊かに演奏する。第二幕最後の、鐘の音のバンダの効果は大きいし、第四幕冒頭の「朝」のフルートも決まるし、クリスティアンはOEKの実力を十全に引き出す。さすがである。

歌い手については、やはりソルヴェイグ役の立川清子がダントツである。魑魅魍魎だらけの役の中で、ソルヴェイグだけが清楚な雰囲気を保つ異質な役であり、その成否がこの演奏会を大きく左右する一因となるプレッシャーが掛かるが、高いレベルでその責務を果たしている。石川県立音楽堂の響きをしっかり把握し、余裕を感じさせる声量がニュアンスを豊かにし、気品ある圧倒的な存在感を観客に示す。第四幕の「ソルヴェイグの歌」、第五幕最後の「ソルヴェイグの子守り歌」、いずれも大事な場面を決めていく。Brava!!

ソルヴェイグ役と山の魔女たち役の四人は、いずれも新国立劇場オペラ研修所の13・14
期生である。13期生の三人については、2013年7月にPMFガラコンサートでも聴いたが、その時も立川清子が二歩抜きんでていた。若手の歌い手が育ちつつあるのは嬉しいことである。

ペール=ギュント役の高橋洋介は、後半が好調で素晴らしい。他のソリストも良い出来で、穴がなかったように思える。第五幕に於ける合唱団も見事だ。「ソルヴェイグの子守り歌」のバンダの弱唱が実に効果的である。

重ねて言及するが、クリスティアンとOEKの管弦楽による歌い手のサポートは実に素晴らしい。一つ例を挙げれば、あの立川清子のソルヴェイグのソロの活かし方だ。指揮・管弦楽・歌い手・語り手全てがうまく絡み合い、総力を挙げて見事な「ペール=ギュント」を描き出した、演奏会であった。

2015年2月14日土曜日

Kioi Sinfonietta Tokyo, the 98th Subscription Concert, review 第98回 紀尾井シンフォニエッタ東京 定期演奏会 評

2015年2月14日 土曜日
Saturday 14th February 2015
紀尾井ホール (東京)
Kioi Hall (Tokyo, Japan)

曲目:
Johann Sebastian Bach: Variazioni Goldberg BWV.988 (ゴルドベルク変奏曲)
(arranged for strings by Дмитрий Ситковецкий)
(休憩)
Пётр Ильич Чайковский / Pyotr Ilyich Tchaikovsky: Serenata per archi op.48 (弦楽セレナーデ)

violino: Дмитрий Ситковецкий / Dmitry Sitkovetsky /ドミトリー=シトコヴェツキー
orchestra: Kioi Sinfonietta Tokyo(紀尾井シンフォニエッタ東京)
direttore: Дмитрий Ситковецкий / Dmitry Sitkovetsky /ドミトリー=シトコヴェツキー

紀尾井シンフォニエッタ東京(KST)は、ドミトリー=シトコヴェツキーをソリスト兼指揮者に迎えて、2015年2月13日・14日に東京-紀尾井ホールで、第98回定期演奏会を開催した。この評は、第二日目の公演に対してのものである。

管弦楽配置は、舞台下手側から、第一ヴァイオリン→ヴィオラ→ヴァイオリン-チェロ→第二ヴァイオリンの左右対向配置で、コントラバスはチェロの後方につく。ゴルドベルク変奏曲はチェンバロがあり、上手側後方の位置につく。

着席位置は一階正面後方僅かに上手側、チケットは完売している。観客の鑑賞態度は、ゴルドベルク変奏曲の冒頭のみ鈴の音が目立ったが、他は概ね良好であり、二曲目の弦楽セレナーデは、紀尾井シンフォニエッタを私が聴き始めて以来の極めて良好なものであった。

ゴルドベルク変奏曲BWV.988は、冒頭固さが見られたものの、曲の進行とともに完成度を高める。全般的に節度あるパッションで表現する。トゥッティで演奏する場面、首席奏者がメインで他が伴奏する場面、シトコヴェツキーのソロのみが前面に立つ場面、この曲の持つ様々な表情を、その場その場で適切な音色を考え抜いた演奏で、バッハの曲想を活かした、素晴らしい演奏だ。

後半はチャイコフスキーの弦楽セレナーデ。節度を保ち、涙腺ウルウル要素が過剰にならない方向性であるが、シトコヴェツキーの見通しの良い構成力が光る、いい意味で中庸な表現である。派手さはないが、この場面ではこの響きでという必然が理解でき、奏者に示せている。一方でKSTは、シトコヴェツキーの意図を的確に理解し、実際の響きにその精緻さで実現される演奏である。好みはともかく、この路線のスタイルでは完璧な出来であった。

アンコールは、J.S.バッハ作管弦楽組曲第3番BWV1068より第2曲アリア、これも完璧な演奏でシトコヴェツキーとKSTとの相性の良さを実感させるものであった。