2014年8月23日土曜日

アルディッティ弦楽四重奏団 演奏会 評

2014年8月23日 土曜日
水戸芸術館 (茨城県水戸市)

曲目:
アルバン=ベルク:弦楽四重奏曲 op.3(1910)
ブライアン=ファーニホウ:弦楽四重奏曲 第3番(1987)
(休憩)
ハリソン=バートウィスル:弦楽四重奏曲〈弦の木〉(2007)
(休憩)
アルノルト=シェーンベルク:弦楽四重奏曲 第2番 op.10(1907-08)

ソプラノ:サラ=マリア=ズン(Sarah Maria Sun)
弦楽四重奏:アルディッティ弦楽四重奏団 (Arditti String Quartet)

アルディッティ弦楽四重奏団は、8月21日から8月26日に掛けて来日ツアーを行い、サントリーホール(東京)(1公演は東京交響楽団との共演、もう1公演はブルーローズでの演奏会)、水戸芸術館(水戸)、草津音楽の森国際コンサートホール(群馬県吾妻郡草津町)にて計4公演開始される。

水戸芸術館での演奏会では、最後のシェーンベルクのみソプラノにサラ=マリア=ズンが加わり、ボリジョイ六重奏団のような形態での演奏会となる。亡くなられた吉田秀和さんの後任とでもいうべき音楽評論家、片山杜秀の解説付きである。

全て現代曲または現代曲に準ずる曲目であり、かなり尖がっているプログラムである。どのような観点から観察するべきなのか、現代曲については良く分からないので、かなり簡単な感想じみたものとなってしまうが、総じて良かったのはホンマものの現代曲であるファーニホフとバートウィスルの曲目である。

何か合わせて演奏すると言うよりは、各自バラバラに演奏する事によって、各演奏者の個性が伺える。演奏者に穴はなく、全てが技術的に難しそうなフレーズを確実に弾きこなし、ニュアンスも精密に表現しきっている。残響が少なめな水戸芸術館の音響を考慮して、奏者自らが残響を作って豊かな響きをも実現している。今や眠くなるような演奏しか出来なくなって凋落したエマーソン弦楽四重奏団とは全く違い、作曲家と密接な関わりを持って演奏活動を続けて来たアルディッティ弦楽四重奏団は、いつまでもヴィヴィッドであり続けなければならない環境下にあったせいか、結成40周年を経ても勢いが削がれていないように思われる。極めて素晴らしい弦楽四重奏団である。

現代曲だからこそ、技術面や構成力、ニュアンスを重視していかなければならないのだと思い知らされる。20世紀初頭までのクラシック音楽と現代曲との関係は、クラシック-バレエとコンテンポラリー-ダンスとの関係に似ている。どちらが優れているとか高度な内容だとか言うものではなく、どちらもそれぞれの分野で求められている内容は違っているけれども高度であり、しかしどこか共通なものも求められているところが分かって面白い。

ソプラノのサラ=マリア=ズンの出来は、普通の出来か。いつでもモデル転向可能な程細くて、歌い手の中では最高の美女で、お目目の保養にピッタリだ。膨張色である白いドレスを着ていても、バレエダンサーかと思ってしまう程の体格である。肝心な歌声は、強声部は浮遊感があるが、弱声部については今一つ弦楽四重奏との調和が取りきれていない印象がある。室容積が少ない水戸芸術館であったら、もう少し精密に響かせる事も出来るようにも思える。

片山杜秀の解説はあってもなくても良かったが、邪魔にならない程の短さである。演奏者へのインタビューを中心としたもので、おどろおどろしい片山節はほんの僅かしかなかったため、これを期待していた人たちにとっては物足りなかったかもしれない♪

観客の入りは、中央はほぼ埋まっていたものの左右翼は合わせて30人ほどで、おそらく合計300人程と思われる。定員680名のホールで半分以下の入りではあるが、そもそも弦楽四重奏+現代音楽+地方都市と言った厳しい内容でありながら、これだけの観客を集めただけ凄いと言えるだろう。学芸員が充実しているからこその水戸芸術館ならではの企画で、地方都市でここまでの企画をぶち上げた事自体が称賛に値する。今後も、どこのホールでも実現していないこのような企画を続けていってほしいと、心から願っている。