2015年3月1日日曜日

ボストン美術館 華麗なるジャポニズム展  印象派を魅了した日本の美

名古屋ボストン美術館 2015年3月1日 日曜日

2014年6月28日から、世田谷美術館(東京)・京都市美術館(京都府京都市)と続いて、2015年1月2日から5月10日までは名古屋ボストン美術館でこの展覧会が開催されている。

東京:大阪:名古屋の美術展観客動員数は、10:5:3であるそうだが、そのような状況の上に展示期間は名古屋が一番長く、良好な環境で鑑賞できることを期待し、混雑が予想される会期始め・会期末にならない中間の3月1日に行くこととした。前日には、トゥールーズ-キャピトル管弦楽団の名古屋公演が愛知県芸術劇場コンサートホールであったので、ちょうど良い。

2014年9月にボストン美術館に行った私にとっては、この展覧会に行くことによって、昨年9月にボストンにはなかった作品を見ることが出来るとの計算も働いた。

余裕を持って時間を確保さえすれば、一番の目玉であるであるクロード=モネ作の「ラ-ジャポネーズ」(目録番号26)ですら、独り占めする時間があるほどだ。狙いは当たった。

一年近くに渡って、作品がボストンを離れ日本ツアーを行っているが、それはボストン美術館の展示室が不足気味で、特に日本の作品の展示室が著しく少ないためである。決して気前が良い訳ではないだろう。浮世絵を紹介するための展示室は実質第280号室のみ、十万点以上の日本作品コレクションを持っているとされるのに、これでは作品は収蔵庫の中にしか入れられない。印象派の作品についても、メトロポリタン美術館ほどではないとしても、かなり充実しているので、それなりの作品を長期間出しても、ボストン美術館の展示室に支障はないのだ。

今回の展覧会は、日本趣味、女性、シティ-ライフ、自然、風景と五つに分けて、作品を紹介している。

以下、私なりの注目作品と、感想を述べる。

1.日本趣味
最初の六点の葛飾北斎・歌川広重の作品からして良いものを出してくる。
目録番号1: 葛飾北斎「富嶽三十六景 武州千住」
目録番号2: 歌川広重「東海道五拾三次内 三島 朝霧」
目録番号3: 歌川広重「名所江戸百景 大はしあたけの夕立」
目録番号4: 歌川広重「名所江戸風景 亀戸梅屋舗」
目録番号5: 歌川広重「名所江戸風景 真崎辺より水神の森内川関屋の里を見る図」
目録番号6: 歌川広重「名所江戸風景 浅草田甫酉の町詣」

こうした作品を見ていると、日本の浮世絵がいかにグラデーションを要所のみに用いていて、色彩も鮮やかでありながらシンプルで、これらの結果、グラデーションを用いている箇所でさえ輪郭の明瞭感が強調されるのだなと思う。

2.女性
目録番号23: クロード=モネ「ラ=ジャポネーズ」

女性は当時のモネの妻、カミーユ=モネである。内掛の図柄は謡曲「紅葉狩」ではないかとの説を解説板で出しており、そうだとすると、内掛の腰から下にある武者が、美女のふりして油断させて武者の命を狙おうとしていた鬼女を成敗する事となるようで、そうなるとカミーユは鬼女となってしまうのだが、どうせモネ一家はそんな経緯など知らずにこの内掛を使ってのだろう。武者が立体的に見える瞬間もあって、実に精緻に描かれていたのだなあと思い知らされる。

目録番号25: 鳥橋斎栄里「(近江八景 石山秋月)丁小屋内 雛鶴つるし つるの」
目録番号26: 菊川英山「風流近江八景 石山」
目録番号28: エドマンド=チャールズ=ターベル「夢想(キャサリン-フィン)」
目録番号29: フランク=ウェストン=ベンソン「装飾的頭像」

3.シティ-ライフ

(特になし)

4.自然
目録番号88: チャールズ=キャリル=コールマン「つつじと林檎の花のある静物」
目録番号94: アンリ=マティス「花瓶の花」

5.風景
目録番号109: 歌川広重「東海道五拾三次内 岡崎 矢矧之橋」
目録番号131: 歌川広重「名所江戸風景 鉄炮洲稲荷橋湊神社」

目録番号137: 歌川広重「名所江戸風景 神田明神曙之景」
目録番号138: ジョン=ラファージ「ヒルサイド-スタデイ(二本の木)」

目録137と138は、138が137の影響を受けていると示す展示方法である。ラファージは広重の空と全く同様に空を描いているが、どうもしっくりこない。浮世絵の影響を受けてばかりで、ラファージ自らの消化が足りない印象を受ける。

目録番号139: 歌川広重「名所江戸風景 愛宕下藪小路」
目録番号140: カミーユ=ピサロ「雪に映える朝日、エラニー-シュル-エプト」

目録139と140は、140が139の影響を受けていると示す展示方法である。
140の作品を見せられても、浮世絵の影響を受けていると素人が見破る事は困難であろう。浮世絵から得た物をピサロ自身の中で消化し、ピサロ自身の様式に落とし込む事に成功している。

目録番号143: 歌川広重「東海道五拾三次内 四日市 三重川」
目録番号144: クロード=モネ「トルーヴィルの海岸」

目録番号145: 歌川広重「東海道五拾三次内 鞠子 名物茶屋」
目録番号146: クロード=モネ「積み藁(日没)」

上記四点の作品も、それぞれ下の作品が上の作品の影響を受けていると示す展示方法である。モネの作品を見ていると、いかに浮世絵の要素を消化して、それぞれの画家の様式に落とし込む事が大切かが良く分かる。モネ・ピサロは優れた例である。日本の流儀をそのまま西洋に移植するのは、その逆がそうであるように、やはり無理があり、良い作品にはならない。影響を受けつつも、自らの様式を確立して表現する事が如何に重要かを思い知らされる。

目録番号147: クロード=モネ「睡蓮の池」
目録番号148: クロード=モネ「睡蓮」

睡蓮の作を二点ボストンから旅出させた。これらの作品を出しても、ボストン美術館の展示室を埋める作品はいくらでもあるのだ。良いことなの悪いことなのかは分からないが。

印象派・浮世絵が好きな方は、名古屋駅から電車で5分の金山駅前にある、名古屋ボストン美術館に行って、この展覧会をご覧になることを進めたい。休憩を含めずに三時間あれば余裕だろう。名フィルの演奏会とセットに訪問するのもいいのかも知れない。