2014年9月20日土曜日

第96回 紀尾井シンフォニエッタ東京 定期演奏会 評

2014年9月20日 土曜日
紀尾井ホール (東京)

曲目:
ルートヴィッヒ=ファン=ベートーフェン レオノーレ序曲第3番 op.72
フランツ=シューベルト 交響曲第7(8)番 「未完成」
(休憩)
ルートヴィッヒ=ファン=ベートーフェン 交響曲第3番 「英雄」 op.55

管弦楽:紀尾井シンフォニエッタ東京
ゲスト-コンサートマスター:千々岩英一(パリ管弦楽団副コンサートマスター)
指揮:アントン=ナヌート

紀尾井シンフォニエッタ東京(KST)は、アントン=ナヌートを指揮者に迎えて、2014年9月19日・20日に東京-紀尾井ホールで、第96回定期演奏会を開催した。この評は、第二日目の公演に対してのものである。

指揮のアントン=ナヌートは、スロヴァキアの指揮者である。「幽霊指揮者」としても名高いらしい♪ゲスト-コンサートマスターの千々岩英一は、パリ管弦楽団の副コンサートマスターである。

管弦楽配置は、舞台下手側から、第一ヴァイオリン→第二ヴァイオリン→ヴァイオリン-チェロ→ヴィオラのモダン配置で、コントラバスはチェロの後方につく。木管パートは後方中央、ホルンは後方下手側、その他の金管・打楽器群は後方上手側の位置につく。

着席位置は正面後方中央、チケットはこの公演を含め、二公演とも完売した。空席があるのは、定期会員のサボりによるものだろう。観客の鑑賞態度は飴のビニールが部分的に響く箇所はあったが、KSTの定期演奏会にしては良好の部類に入る。拍手のタイミングは「未完成」ではフライング拍手があり、他の二曲もわずかに早かった。アンコールはなかった。

前半の「レオノーレ序曲」「未完成」は若干目立つミス(ある楽器のソロに精緻さが欠けていた、ある楽器のソロの出だしが若干遅れたレベル)はあったものの、管弦楽にナヌートの意図を実現させるパッションが感じられる。

「未完成」は、私が生で聴いた中では一番の出来だ。紀尾井ホールの響きを十全に活かし切りながら、ニュアンスも豊かである。特に第一楽章は傑出した見事なもので、アントン=ナヌートとの相性の良さが見事に開花する演奏だ。

後半の「英雄」では、管弦楽の完成度が上がり、ほぼ完璧にナヌートの意図を実現させている。ナヌートの見通しの良さが活かされる、傑出した内容の「英雄」だ!パーヴォ=ヤルヴィ+ドイツェ-カンマーフィルハーモニー-ブレーメンによる演奏のような凶暴な内容ではなく、正統派と言うか保守本流のアプローチであるが、クライマックスへの持って行き方が絶妙であり、聴かせどころを深く理解している演奏だ。

観客の誰もが「全面勝利」の「英雄」気取りになってしまいそうな演奏となるが、勝因は明らかだ。

まず、紀尾井ホールの豊かな響きを十二分に把握した上で、たっぷりと響かせたところにある。しかし、単にこれだけではない。繊細に行くベキところは神経を通わせているし、金管は響き過ぎ寸前のギリギリの線で鳴らして適切なアクセントを与えている。要所で弦にニュアンスを掛ける場面は、さりげなくも実に効果的で、これらの戦略が全て上手く絡みあっている。

紀尾井ホールの響きを活かし切れていない指揮者、ソリストが多くいる中で、ナヌートはホールの性能を的確に使い倒す。誤解を恐れずに言えば、いい意味での職人芸だ。音楽と言うものは、何よりも「響き」で全てが決まる!ちゃんと響かせれば、指揮者の意図も演奏者のパッションも的確に伝わってくる事を、改めて思い知らされる演奏だ。KSTの演奏は、突っ込みどころが皆無と言うわけではないが、それでも傑出した内容の演奏に仕上げてきた要因は、「ちゃんと響かせた」事である。この事が、一番重要な基本なのだ。アントン=ナヌート万歳!KST万歳!!