2014年5月3日 土曜日
電気文化会館 (愛知県名古屋市)
曲目:
ウジェーヌ=イザイ 無伴奏ヴァイオリン-ソナタ op.27
第1番 ヨーゼフ=シゲティに献呈
第2番 ジャック=ティボーに献呈
第3番 「バラード」 ジョルジェ=エネスクに献呈
(休憩)
第4番 フリッツ=クライスラーに献呈
第5番 マチュー=クリックボームに献呈
第6番 マルエル=キロガに献呈
ヴァイオリン:アリーナ=イブラギモヴァ
(Алина Ринатовна Ибрагимова / Alina Rinatovna Igragimova)
アリーナ=イブラギモヴァは、4月30日から5月3日に掛けて来日ツアーを行い、トッパンホール(東京)、電気文化会館(名古屋)にてリサイタルを行った。いずれも曲目は、イザイの無伴奏ヴァイオリン-ソナタである。在住国の連合王国にても、日本ツアーの後で123を一回、456を一回、全てを一回の公演がある。
アリーナ=イブラギモヴァは1985年9月28日に、当時のソヴィエト連邦スヴェルドロフスク州に生まれた。10歳の時に、父親がロンドン交響楽団コントラバス首席奏者として就任したことに伴い連合王国に移住し、現在も本拠としている。
イブラギモヴァの評判については、名古屋に於ける聴衆仲間からの噂で聴きつけた。まだ20代の彼女の演奏スタイルは「激しい」らしく、どちらかと言うとカワイイ系の顔立ちを売り物としている写真からは、想像できない。電気文化会館の宣伝チラシによると、「”妖精”イブラギモヴァが誘う。イザイの深淵」との事である。
そもそも東京での公演日は平日であり、かつわざわざ最新鋭の劣悪な音響設計で建築したトッパンホールに、この私が行くはずがない。当然名古屋の電気文化会館で決定である。着席位置は、一階中央やや前方である。客の入りは7割くらいであろうか。予想外の少なさである。聴衆の鑑賞態度は良好であった。
第1番は、演奏スタイルにリサ=バティアシュヴィリとそう変ったところはない。特別な「激しさ」は感じない。
第2番が始まる。最初の一小節だか三音だかは、実に繊細に優しい響きで弾いているなあと思いきや、突然豹変しアリーナの激しい本性が表出される。そのコントラストに圧倒される。第3番は「バラード」のタイトルに拘束されず、「激しさ」を織り込んだ演奏である。後半の4・5・6番は曲想こそおとなしめになるが、演奏スタイルは変わっていない。トッパンホール公演では最終局面で疲れが出たとの情報もあるが、今日の電気文化会館での公演では最後の最後まで緊張感が途切れない抜群の安定感を保っている。
アリーナの傑出しているところは、実は「激しさ」を伴うところも極めて緻密に演奏しているところだ。重音の美しさも何らの淀みもない。感情に全てを任せる事もせず、パッション溢れる演奏スタイルで観客の目を眩ませることもなく、全ては綿密な構成力の下で全ての響きが成り立っている。一音一音のあらゆる場面が必然と感じられる。完璧と言ってよい。身体能力の高さの面では若さの特権を活かしつつ、産み出される音楽は28歳とは思えない演奏だった。
無伴奏と言う事もあり、アンコールはなし。唯一の突っ込みどころは、「妖精」の宣伝文句の割にはふっくらとしていたことくらいしかない。この12月にはJ.S.バッハの無伴奏を同じ電気文化会館で演奏する。その時までにはダイエットを済ませて、「妖精」の宣伝文句の通りになってくださいね、アリーナたん♪♪