2016年10月9日日曜日

Israel Galván, ’SOLO’, Nagoya perfomance, review イスラエル=ガルバン 「SOLO」 名古屋公演 感想

2016年10月8・9日 土・日曜日
Saturday 8th October 2016
Sunday 9th October 2016
愛知県芸術劇場小ホール (愛知県名古屋市)
Aichi Prefectural Art Theater, The Mini Theater (Nagoya, Japan)

演目:「SOLO」(2007年初演)
ダンサー:イスラエル=ガルバン(Israel Galván, 1973年, Sevilla, Andulucía, España生まれ)

イスラエル=ガルバンは、2016年10月7日から16日まで「あいちトリエンナーレ2016」に招聘され、上記演目を愛知県芸術劇場小ホールにて10月7日から9日まで一公演ずつ、計3公演上演した。
この演目とは別に、10月15・16日に、名古屋市芸術創造センターにて「FLA.CO.MEN」をも上演している。
一都市で二演目以上の公演を実施するのは異例のようで、キュレーターの熱意・力量の賜物と思われる。また、イスラエル=ガルバンは「あいちトリエンナーレ2016」での公演のためだけに本拠地から旅行し、名古屋以外の都市での公演を行わなかった。
担当キュレーターは、愛知県芸術劇場シニアプロデューサーの唐津絵理さんである。
「あいちトリエンナーレ2016」パフォーミングアーツ部門で、一番最初に出演が決まったのが、イスラエル=ガルバンであったとのことである。

この感想は、2016年10月8・9日の、第二・第三公演に対するものである。なお、私はフラメンコその他ダンスの知識はなく、私の感じたことをそのまま記したものである。小学生の感想文レベルであることをお許し願いたい。

愛知県芸術劇場の小ホールは、舞台・客席の配置を自由に変えられる構造を有している。関東圏で言えば、新国立劇場小劇場が類似した構造を有している。今回は、出演者・スタッフのみにしか見えないスペースが全くない設定で、観客席の数は269席の設定である。

ホワイエと同一の高さの床面(以下「ホワイエ床面」という)を基調にしており、舞台はホワイエ床面から約30cm程かさ上げされている。座席は三面に配置されている。
下手側・上手側には、それぞれ2列11+12=23席の席が配置される。1列目はホワイエ床面、2列目はかさ上げされている。
正面席は、1列目から7列目の舞台左右端よりも中央側は段階的に床面を下げられ、一番前の席の床面はホワイエ床面の-20cmくらいであろうか。よって、一番前の席と舞台との床面の差はおよそ50cm程である。舞台左右端よりも外側については、1列目から7列目までホワイエ床面である。8列目以降は、ロールバック式客席(20席×5列=100席)となる。
舞台からホワイエ床面に降りると、舞台左右沿い・1列目から7列目席の外側両側通路・7列目と8列目の席の間の通路が・全て同じ高さで構成される。まるでこの’SOLO’のために作られたかのような、構造である。

舞台の上は、フラメンコ靴で床面を傷めないようにするためであろうか、黒い板が張られている。幕は一切用いられない。照明は白熱色の電球を用い、上演中全く同一の照度を保つ。スポットライトも用いられない。BGMもない。よって、イスラエル=ガルバンの身一つで、足踏みしたり、声を出したり、体を叩いたりして音を出さなければならない。後半になって、一部残響増幅装置を用いる箇所があるが、これも音自体はイスラエルが出し、その音を増幅させず、長く残響させるだけの装置であると私には思える。

ホールの扉が閉まった後、上手側から登場し、上手側席の奥方を通過して、舞台最後方中央に立つ。これが最初のポジションである。ここから、手を叩き始めて演技が始まる。前述したとおり、フラメンコ靴を床に叩いたり、声を出したり、体を叩いたりしてリズムを刻み、踊る。言葉にすれば、それだけの事である。

何の技法を用いているのかは、知識のない私には言えない。

振りは、8日公演と9日公演とで、全て違っていると言って過言ではない。
公演開始X分後に客席に降りて観客を構ったり、後半の時点で残響増幅装置を用いた踊りを開始したり、45分後になったら舞台下手側からのホワイエ床面を客席後方に向かい、7列目から8列目の間で下手側から上手側に移動して客席パフォーマンスを行い上手側を舞台奥方端まで進み、舞台に上がって中央まで進み、最初のポジションで「どうもありがと」と言って終演するという骨格だけは決まっているが、その間に何を踊るのかは、その時のイスラエルの気分次第と言うところか。

踊りの内容は、’FLA.CO.MEN’をご覧になった観客に分かるように説明すると、舞台・客席とも暗転した中をイスラエルが一周する直前に、舞台下手側で一人で踊っている場面があるが、そのシーンを45分続けると説明すれば、大きな間違いはないと思う。’FLA.CO.MEN’は、他の六人との音楽家も同格にイスラエルとわたり合う総合芸術であるのに対し、’SOLO’は100%イスラエルのダンスでありリズムであり歌であり、舞台が近くて観客との緊密な一体感の下で演じられる演目であり、性質が全く違う。頭の切り替えが必要となる。

8日の公演では、フラメンコの様式に則っている方向性に感じられた。闘牛とも大きな鳥とも想像させるポーズが多かった。「あん、あん、あんあん・・・」とちょっと官能的な声でリズムを取ったりもする。客席に降りては、観客の前50cmでタップダンスのような踊りを披露したり、観客の手を叩いたりする。好奇心旺盛で楽しそうな表情をしている観客がいたりする一方で、唖然とした表情の観客がいたりして、面白い。そのような観客との相互作用がある性質があるので、観客も試される演目でもある。まあ試されると言ったって、目の前にある踊りを純粋に楽しめばいいだけのことであるけど。
舞台下手から上手へ、上手から下手へと動く場面も多く、その場面では、正面から向かってくるイスラエルを上手側・下手側席の客も味わえる。
楽しく、心臓の鼓動が高まるからなのか、時間はあっという間に過ぎ去り、20分ちょっとで終わってしまったような気持ちで、もっと楽しい時間を過ごしたい気持ちになる。一日目からもあったそうであるが、手拍子付きスタンディングオベーションで終えた。終演後は、登場時とは逆に下手側から去る。カーテンコールは下手側から出入りした。

終演後のアフタートークでは、愛知県芸術劇場小ホールは、気持ちの良い音が出るとの、イスラエルのコメントがあった。舞台が上下方向に可動であり、舞台床には空洞があるため、足踏みした音がよく響くのも要因の一つであったのか。

9日の千秋楽は、何もかもかなぐり捨て、フラメンコの様式に則っているというよりは、より自由な方向性に舵をとったように見えた。以下、その時の私がtwitterに記した感想を書こう。

「今日のIstael は大胆不敵!Israelが狂った!Israelが暴走した。今日のIsrael は言葉に尽くせない凶暴な何かだ!舞踊ファンで今日名古屋にいなかった方は、一生後悔するだろう!まさしく大名演!」
「Israel Galván 'SOLO' 愛知県芸術劇場。あんなに凄く凶暴なダンスはない。こんな名演は数年に一度観れたら、聴けたらいいものだ。何もかもかなぐり捨て、獰猛な本能を観客に見せつけた!日本に於ける今年のダンス部門のダントツトップ公演決定である!心臓の鼓動が収まらない!」
「Israel Galván 'SOLO' 愛知県芸術劇場、千秋楽。あんな凶暴なダンスを見せつけられて狂わない観客はいない!今日観た観客の中で、心臓発作で死ぬ者が50名は出る!名古屋中の循環器専門医師たちよ、覚悟するがいい!今日はIsraelを観劇した観客の波状攻撃を受けるだろう!」
「Israel Galván 'SOLO' 愛知県芸術劇場、千秋楽。「アン、アン、アンアン・・・」と事情を知らない人たちが聞いたら妖しいシャウトしながら金山駅のホームを歩きそうになる。新幹線の車内でやってしまいそうで怖い。頼む、警察に通報しないでくれ!!」

我ながら、どう考えても狂った感想である。8日の演技とは、冒頭の手を叩く場面から空気感が違っていた。尋常ではない、どこか凶暴さを感じさせる雰囲気の下で、手拍子が進められていく。一回目の観客とのコミュニケーションの時間では、最前列の観客とは、Holaとあいさつを交わし握手する程のテンションの高さだ。8日の観客は、楽しそうに笑っていたが、今日の観客は笑い方が変である。何か、気持ちが高揚しているけど、可笑しいから笑うが、しかし高揚した気持ちが勝って変な笑い方になるのだ。
イスラエルは、歌って踊っている間にパッションが抑えられなくなったのか、シャウトまでし始める。後半、残響増幅装置を使っている場面では、舞台奥にある壁を叩きだした。まさに暴走と言って差し支えない。凶暴なダンスであり、獰猛な本性を露わにした、まさに名演である。

終演の合図とともに熱狂的な拍手+スタンディングオベーションが発生する。観客の中に、足で床を叩く人物まで現れ始め、空洞のある床構造故に、これが良く響き、手拍子+足拍子付きの総立ち状態となる。最後は、最前列の観客との連続握手があり、熱狂的な観客から、思わず出てしまったであろうカスティージャ語で「Gracias!! Muchas Gracias!!」と叫び声が上がる。その後下手側扉にイスラエルが去り、公演を終えた。

インターネット上に ’SOLO’ の上演記録がアップされているが、この名古屋公演の熱狂的な演技を再現したものにはなっていない。出回っている記録の10倍は素晴らしい内容だったと、自信をもって言うことができる。

一週間後に同じ名古屋で上演された、 ’FLA.CO.MEN’ に関しては下記リンク先ブログ「la dolce vita」を参照願いたい。私も15・16日公演の両方に臨席したが、私が思ったことについても的確に記述されていり、いちいち私が述べる必要もないだろう。
http://dorianjesus.cocolog-nifty.com/pyon/2016/10/1015flacomen-0a.html