2014年4月13日日曜日

庄司紗矢香+メナヘム=プレスラー デュオ-リサイタル 松本公演 評

2014年4月13日 日曜日
松本市音楽文化ホール (長野県松本市)

曲目:
ヴォルフガング=アマデウス=モーツァルト ヴァイオリンとピアノのためのソナタ K.454
フランツ=シューベルト ヴァイオリンとピアノのための二重奏曲 op.162 D.574
(休憩)
フランツ=シューベルト ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1番 op.137-1 D.384
ヨハネス=ブラームス ヴァイオリンとピアノのためのソナタ第1番「雨の歌」 op.78

ヴァイオリン:庄司紗矢香
ピアノ:メナヘム=プレスラー

庄司紗矢香とメナヘム=プレスラーは、2014年4月1日から4月13日までに掛けて日本ツアーを行い、高崎(群馬県)・美深町(北海道中川郡、何とまあ、北海道は旭川の北の名寄の北の小さな町に登場したのだ!)・宇都宮・大阪・東京・鎌倉(神奈川県)・松本にて計7公演開催した。この評は、第七回目(最終回)4月13日松本市音楽文化ホールでの公演に対してのものである

庄司紗矢香は1983年生まれの、ヴァイオリニストであり、言うまでもなく世界的にトップレベルのヴァイオリン奏者である。この1月30日に31歳の誕生日を迎えた。今日は、松本で桜が開花し満開に近づきつつある事を踏まえたのか、桜色のドレスで観客の目を惹きつける。

メナヘム=プレスラーは1923年にドイツ、マクレブルク生まれで、昨年12月に90歳に達した。庄司紗矢香とは約60年の年の差で、祖父と孫のように思える。メナヘム=プレスラーは大変小柄な方で、あの庄司紗矢香よりも背が低い程だ。

着席位置は正面中央やや上手側、観客の入りは九割程で、チケットは完売には至らなかったようだ。観客の鑑賞態度は、致命傷にはならない程度に携帯電話の着信音があったものの、拍手のタイミングは余韻が消えた後に為され、またアタッカ気味に進められる曲の進行を妨げる動きもなく、その意味では大変良好であった。

曲を知っている人たちにとってはご存じの通り、聴衆に対しても集中力を要する曲目で、その全てが聴衆を眠らせる魔力を持った曲である。

二人とも目指した方向性は、技巧を見せつけるものではなく、如何に曲を鋭く解釈しニュアンスを豊かにして新たな生命を吹き込むか、と言ったところにある。

完成度は全般的にプログラムの進行とともに上がっていく。リピートがある部分では、二回目の方がより良い出来となっていく。

二人の関係性は、時にヴァイオリンが表に出たり、ピアノが表に出たり、二人で一緒に奏でたりと、かなり明確に区別している。二人とも弱音がとても豊かである。集中力に満ち、ニュアンスに富み、何気ないフレーズからすら新たな命が吹き込まれる名演である。特に最後のブラームスは完璧と言って良い。

プレスラーのピアノは、さすがに90歳であり肉体的に技巧を極める路線では決してないが、何をしたいのかが明確で、優しい響きで淡々と進めているようで、どこか深みが感じられる演奏である。

庄司紗矢香のヴァイオリンから発せられるニュアンスからは、新たな解釈が生まれる。紗矢香の素晴らしいところは、他の誰もが特に意識することなく通り過ぎる場面であっても、新しい世界を構築していく力があるところだ。間違いなく日本人の中で圧倒的な差を持ってトップに君臨するヴァイオリニストであるし、世界的にも彼女のような存在は(いたとしても)稀だろう。

アンコールは四曲あり、ドビュッシーの「亜麻色の髪の乙女」、ショパンの夜想曲第20番(プレスラーのソロ)、ブラームスの「愛のワルツ」、ショパンのマズルカ(op.17-4)(プレスラーのソロ)であった。