2014年3月30日 日曜日
東京オペラシティ タケミツメモリアル (東京)
曲目:
シルベストレ=レブエルタス(Silvestre Revueltas Sánchez) 「センセマヤ」(ヘビ退治)
マルエル=マリア=ポンセ(Manuel María Ponce Cuéllar) ヴァイオリン協奏曲
(休憩)
カルロス=チャヴェス(Carlos Antonio de Padua Chávez y Ramírez) ピアノ協奏曲 (日本初演)
シルベストレ=レブエルタス(Silvestre Revueltas Sánchez) 「マヤ族の夜」
ヴァイオリン:アドリアン=ユストゥス (Adrían Justus)
ピアノ:ゴンサロ=グティエレス (Gonzalo Gutiérrez)
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団(TPO)
指揮:ホセ=アレアン (José Areán)
公益財団法人東京オペラシティ財団は「メキシコ音楽の祭典」を企画し、2014年3月28日に東京オペラシティ-リサイタルホールで「室内楽の夕べ」(室内楽演奏会)、3月30日に大管弦楽演奏会を挙行した。この評は、3月30日に開催された大管弦楽演奏会に対するものである。
管弦楽こそ東京フィルハーモニー交響楽団(TPO)であり、日本で「現地調達」したものであるが、ソリスト・指揮者ともメヒコ(メキシコ)市生まれ、曲目もメヒコ出身の作曲家によるものである。
管弦楽配置は、モダン配置であることの記憶ははっきりしているが上手側のヴィオラ・ヴァイオリン-チェロの順番については記憶していない。コントラバスはチェロの後ろにつく。パーカッションは基本的に舞台下手側後方に位置している。
着席位置は一階正面中央僅かに上手側である。観客の入りは六割程であろうか、一階後方はガラガラの状況であり、わざわざメヒコ音楽を聴きに行く変わり者は少ない。当日の同じ時刻に、東京交響楽団演奏会がミューザ川崎にてあり、指揮者ユベール=スダーンの最後の指揮ということもあり、東京の大管弦楽イヴェントが重なったこともあるだろう。私がこの演奏会を選んだ動機は、カスティージャ(スペイン)語圏の音楽に対する好奇心の他、正直「怖いもの見たさ」的な好奇心も大なるものがあり、聴きに行くことをかなりあっさりと決断した事を覚えている。演奏会場が、聴覚的にも視覚的にも東京で最も素晴らしいホールであるタケミツメモリアルでもあるし・・・。観客の鑑賞態度はかなり良く、タケミツメモリアルの余韻が消えるまで待って拍手を送っていた。
演奏会が始まる前に、指揮台に楽譜らしきものを持ってくる、如何にもメヒコ美女らしき人物が登場し、ホセ=アレアンはずいぶんとお美しいアシスタントを確保しているものだなあと感心していたら、名前だけどこかで聞いたことがある政井マヤである。楽譜ではなくスピーチ原稿であった。どうもこの演奏会は、支倉常長遣欧使節団が現在のメヒコに立ち寄って400年であることを記念した「日本メヒコ交流年」行事の一つでもあり、政井マヤはメヒコ国チワワ州生まれの縁もあって親善大使としてご挨拶とのことだ。早く曲を聴きたくてうずうずしている中、ギリギリセーフの長さでスピーチを終える。
ソリストの様子について述べる。
ポンセ作曲ヴァイオリン協奏曲のソリストであるアドリアン=ユストゥスは線が細く、タケミツメモリアルの響きを味方につけられていない。管弦楽はかなり手加減していたが、眠くなる演奏となる。
チャベス作曲のピアノ協奏曲のソリストであるゴンサロ=グティエレスは、この1942年に初演された現代作品で、35分の長さではあるが音が多く、ソリストの負担が大きい曲を、完璧な技術で弾ききり、パッションも込められ、日本初演を鮮やかに飾った。
管弦楽について述べる。
TPOは第一曲目冒頭こそ硬さが目立ったが、出来不出来の激しいTPOの演奏を踏まえると、少なくとも年に三回レベルの素晴らしい演奏を披露した。おそらく、2014年ベスト演奏となる名演である。タケミツメモリアルの響きの特性を活かしきり、弦楽管楽打楽器全てがその役割を十二分に果たし、楽団員の能力を100%引き出した美しい響きの上に、メヒコの管弦楽団を想像させるパッションを相乗させた演奏であり、ホセ=アレアンの指揮、TPOの演奏、タケミツメモリアルの音響、それらが三位一体となって全てが巧く噛み合った演奏だ。最後の「マヤ族の夜」最終楽章とでもいうべき「魔術の夜」では、パーカッションセクションが卓越した完璧な演技で観客の興奮を最高潮に持っていき、プログラムを華麗に終える。
アンコールは前半終了時に、アドリアン=ユストゥスのソリストアンコールがあり、何故かパガニーニの「24のカプリース」より第21番、演奏会終了時のアンコールが1950年に生まれたメヒコの作曲家、アルトゥーロ=マルケス(Arturo Márquez Navarro)の「ダンソン第2番」である。
演奏会終了は、開始時刻から2時間50分を経過していた。30分を超える協奏曲が2曲あるなど、ボリュームたっぷりでありながら、極めて水準の高い内容でまとめ、しかも日本ではあまり知られていないメヒコの音楽を披露した意義深い演奏会であり、このような演奏会を実現させた日本・メヒコ両国の関係者、公益財団法人東京オペラシティ文化財団を高く評価したい。