2019年1月17日木曜日

新国立劇場バレエ団「ニューイヤー バレエ」(2019) 感想

新国立劇場バレエ団「ニューイヤー バレエ」

上演演目:「レ シルフィード」「火の鳥」「ペトルーシュカ」

2019年1月12日から14日(計3公演)新国立劇場大劇場。三公演とも臨席した。

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バレエリュスの三作品を上演した。「レ シルフィード」「ペトルーシュカ」は、ミハイル フォーキンの振り付け、「火の鳥」のみ中村恩恵による読み替え新制作。「ペトルーシュカ」の舞台装置は、バーミンガム ロイヤル バレエ団から借りたものである。

「ニューイヤー」を銘打つ割には、最後は亡霊で終わる。オメデタイ気分で来た方は・・・。
本来「トリプルビル」で売り込むべきところなのでしょうけど、「ニューイヤー バレエ」と商業的にタイトルつけないと、客が来ないっぽいからそうしているらしい。なお新国立劇場バレエ団は「ヴァレンタイン バレエ」と称して恋人同士を引き寄せておきながら、オディールのパドゥドゥを披露するという、鬼畜な演目を用意した実績があり、リア充に対する企画制作者の怨念が垣間見える(笑)。

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「レ シルフィード」は細田千晶さんの浮遊感に注目させられた。群舞は13・14日公演が素晴らしかったか。木村優里さんの長い手足を活かした華やかさがいい。他方、小野絢子さんも不利な体形を全く感じさせずに繊細に形作った。

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「火の鳥」は、ダンサーの実演面では秀逸であり、全てのダンサーが中村恩恵の意図を十二分に表現したものであった。

「娘」役は、米沢唯ちゃん・五月女遥さん、いずれも男性ダンサーに与えられる速さに適応していた。一回本番を通した後で観劇した五月女遥さんは、小柄な体格から与えられる名状しがたい印象が感じられた。14日公演の米沢唯ちゃんは、五月女さんが与えた印象の他に、さらなる舞踊自体の完成度の高さ、不安感や中性的な雰囲気の表現、王子役から羽を取り上げるために誘惑する箇所での、ワルイ子ちゃんの要素と恋してるかもの要素のどちらとも取れそうな、あるいは両方ありそうな不思議な表情があり、終盤部は特に心を打ち震わせるものであった。

他、王子役井沢駿さんと反乱軍リーダー役の福岡雄大さんとの対峙、火の鳥役の演技、黒衣、反乱軍に至るまで、士気の高さを感じさせるものである。ダンサーの実演面では、絶賛に値するものである。

しかしながら、後半にある性暴力シーン(内容は明らかに集団強姦→(プログラム記載によると)妊娠)は断じて容認できないものである。そのシーンの後の展開を考慮しても、雰囲気を単に暗澹とさせるだけで、幅広い解釈を観客に委ねながら、実は観客の想像力を限定して阻害した。ストーリー構成面を考慮しても性暴力シーンを入れた必然性は極めて乏しい。

性暴力シーンは、絶対的禁忌とまでは行かずとも、少なくとも極めて慎重な取り扱いを要する。今回、原作から敢えて改変した読み替え(歌劇「ムツェンスク郡のマクベス夫人」を上演するのとは訳が違う)の過程で、ストーリー構成の検討はなされたのか、他に手段はなかったのか、厳格な検討が実施されたとは思えない。振付者の意図を実現するダンサーには、振付家の奴隷ではなく、当然人格と言うものがあり、比較的固定されたメンバーで構成される座付きバレエ団での性暴力シーンは、ダンサーの人心の荒廃につながるだろう。1月14日の千秋楽公演が限界なのではないか。

実演が素晴らしかったから再演するべきとの考えには、強く反対する。これ以上の上演は、観客の人心の荒廃をも齎す。

前述した事情を踏まえ、振付者やダンサーの見解とは全く別の、現代社会を反映した外部の目により厳格に判断されなければならない。この内容では、封印するしかないというのが私の考えである。

この「火の鳥」は封印するべきだが、この振り付けの失敗に関わらず、当然バレエ団として新作は発表していくべきである。
客席から飛ばさない照明、反乱軍が女装して王子を誘惑しようとする「ワルイ子ちゃんになっちゃうよ」の場面等、素晴らしい箇所もあったのだから、中村恩恵さんの次作に期待をすればいいだけのことだ。中村恩恵さんの作品を再演するのであれば、「ベートーヴェン ソナタ」を本島美和さんの引退前に行うべきであろう。

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「ペトルーシュカ」は、特に核となる、人形ペトルーシュカ役奥村康祐さん、人形バレリーナ役池田理沙子さん、共に完璧であり名演であった。奥村康祐さんはいかにも弱弱しい脱力感や悲哀を見事に表現し、最後の亡霊の場面も圧巻であった。池田理沙子さんはハマり役で、人形に求められているカワイさは生得のものであり、人形役に求められる特殊技能を完璧に会得し、コミカルな仕草で魅了させた。

その他、謝肉祭の場面での群衆たちの描写を、バレエ団の総力を挙げて実現した。福田圭吾さんの女装趣味(「火の鳥」での「これから「ワルイ子ちゃん」になっちゃうよ」のシーンと、「ペトルーシュカ」での「仮装の乳母」のシーン)は本当に楽しませてもらえた。悪魔の仮装役速水渉悟さんの跳躍を始め、福田圭吾さん登場後の男性ダンサーが集結し跳躍する場面は圧巻であり、謝肉祭終盤の場面を盛り上げた。

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実質トリプルビルの「ニューイヤー バレエ」は素晴らしい実演で終わった。35分規模の作品を三つ上演する形態であったが、今後も埋もれている一幕物の作品を掘り起こしていってほしい。ヒナステラ作曲の「エスタンシア」辺り、見てみたいと思っている。