2017年1月21日土曜日

NHK Symphony Orchestra, the 1854th Subscription Concert, review 第1854回 NHK交響楽団 定期演奏会 評

2017年1月21日 土曜日
Saturday 21st January 2017
愛知県芸術劇場コンサートホール (愛知県名古屋市)
Aichi Prefectural Art Theater Concert Hall (Nagoya, Japan)

曲目:
Ottorino Respighi: Concerto gregoriano per violino e orchestra(「グレゴリオ風の協奏曲」)
(休憩)
Ottorino Respighi: Vetrate di chiesa, quattro impressioni sinfoniche (「教会のステンドグラス」)
Ottorino Respighi: Feste romane, poema sinfonico per orchestra (交響詩「ローマの祭り」)

violino: Албена Данаилова / Albena Danailova (アルベナ=ダナイローヴァ)
orchestra: NHK Symphony Orchestra(NHK交響楽団)
direttore: Jesús López-Cobos (指揮:ヘスス=ロペス-コボス)

NHK交響楽団は、ブルガリア生まれのアルベナ=ダナイローヴァ(ヴァイオリン)をソリストに、エスパーニャ生まれのヘスス=ロペス-コボスを指揮者に迎えて、2016年1月18・19日にサントリーホール(東京)・21日に愛知県芸術劇場コンサートホール・22日にNHK大阪ホールにて、第1854回定期演奏会を開催した。この評は、第三回目、愛知県芸術劇場コンサートホールでの公演に対してのものである。

今回のプログラムは、全てオットリーノ=レスピーギによる作品となる。この作曲家のみの曲目で地方公演を行う事でも注目される公演である。

管弦楽配置は、舞台下手側から、第一ヴァイオリン→第二ヴァイオリン→ヴァイオリン-チェロ→ヴィオラのモダン配置で、コントラバスはチェロの上手側に位置する。木管は中央後方、ホルンは後方僅かに下手側、その他の金管は上手側、ティンパニは中央最後方、その他のパーカッションは下手側、マンドリンは、パーカッションの手前かつ中央寄りに位置する。

着席位置は一階正面後方中央、客の入りは9割程であろうか、かなり観客数は多いと思われたが、チケット完売には至らなかった。N響は地方に於いて絶大な人気を集めているが、完売とならなかったのは、全てレスピーギの作品である事が影響しているのか?観客の鑑賞態度については、概ね極めて良好である。

一曲目の「グレゴリオ風の協奏曲」、ヴァイオリンのソロを担当したダナイローヴァは、青いドレスをお召しになり、モデルのような容姿のトンデモない美女である。コンサートミストレスの職にあるからか、かなり正統的なアプローチである。愛知芸文の響きを的確に味方につけ、カデンツァも見事で、管弦楽とのコンビネーションも的確だ。いい意味で職人的に音楽を作り上げていく方向性である。しかしながら、曲想が曲想なだけに、盛り上がりはしにくい。

ソリスト-アンコールは、J. S. Bach の無伴奏ヴァイオリン-ソナタ第3番 BWV1005 から ラルゴ であった。サントリーホールでのアンコールと同一と思われる。

三曲目の「ローマの祭り」は完璧と言って良い。オルガン前やや下手側に位置する三人のトランペットからして完璧な響きで、まるで一人でふいているかのようなアンサンブルだ。

弦楽は、大音量で攻めるアプローチではないが、縦の線が完璧に合った弱音で聴衆を魅了させた。弱い音量しか出せないマンドリンの響きを引き立たせる一方で、輝かしい金管の響きと比較して不足はなかった。二年前と比べて、充実した弦楽となっている。

管楽は、ソリスティックな演奏箇所はほぼ完璧に決まり、この曲目の難曲ぶりを踏まえれば、これ以上を望む事は不可能と言える。打楽も完璧である。

ヘスス=ロペス-コボスの指揮は、テンポを大きく揺らすようなことをせず、正統的なアプローチで、管弦楽全体の響きを精緻に考慮した構成であった。この演奏の真価は、FM放送では分かりにくく、実演を聴かなければ認識し難いものである。今日の管弦楽に粗野な響きは一切ない。指揮者・管弦楽・愛知県芸術劇場コンサートホールとが三位一体となって作り上げられた完璧な響きで、N響が本拠地としているNHKホールやサントリーホールでは実現できないサウンドが実現した。

繰り返すが、今回の第1854回定期演奏会は、全てレスピーギの作品であり、この曲目を取り上げた事は勿論のこと、この定期演奏会のプログラムで名古屋・大阪にて公演した試みは高く評価できる。

また、「ローマの祭り」と言う、大管弦楽にとって大きな挑戦を強いられるこの難曲を、これ程までの完璧なレベルで実現されたことに敬意を表する。

二年ぶりのN響演奏会は、輝かしい管弦楽の響きとともに終わった。