2016年6月5日日曜日

Hilary Hahn + Cory Smythe, recital, (5th June 2016), review ヒラリー=ハーン + コリー=スマイス 松本公演 評

2016年6月5日 日曜日
Sunday 5th June 2016
松本市音楽文化ホール (長野県松本市)
The Harmony Hall (Matsumoto Municipal Concert Hall) (Matsumoto, Japan)

曲目:
Wolfgang Amadeus Mozart: Sonata per violino e pianoforte n.27 K.379
Johann Sebastian Bach: Sonata per violino solo n.3 BWV1005
(休憩)
Antón García Abril: ‘Seis Partitas’ 2. 'Immensity', 3.'Love'(「6つのパルティータ」から 2.「無限の広がり」、3.「愛」)
Aaron Copland: Sonata per violino e pianoforte
Tina Davidson: ‘Blue Curve of the Earth’ (「地上の青い曲線」(27のアンコールピースより))

violino: Hilary Hahn
pianoforte: Cory Smythe

ヒラリー=ハーンは、2016年6月4日から12日に掛けて、コリー=スマイスとともにリサイタルを、ファリアホール(横浜市)、松本市音楽文化ホール(長野県松本市)、東京文化会館(東京)、東京オペラシティコンサートホール「タケミツメモリアル」(東京)、愛知県芸術劇場(名古屋市)、兵庫県立芸術文化センター(兵庫県西宮市)、みなとみらいホール(横浜市)にて、計7公演行う。プログラムは全て同一である。理想的な音響となる中規模ホールでの公演は、フィリアホールと松本市音楽文化ホールの二か所だけである。

この評は、6月5日松本市音楽文化ホールでの公演に対する評である。

着席位置は後方正面中央、観客の入りは7割弱で空席が目立ったのは残念である。観客の鑑賞態度は、極めて良好だった。

全体的な白眉は、バッハ無伴奏のBWV1005である。息の長さを感じさせる遅めのテンポで、これ見よがしのギヤチェンジもなく、響きの鋭さを強調するものでもない。全ての音符の響きを完璧に考慮して構築させた演奏であると言ってしまえば、その通りなのだろうけど、弱めな響きでありながら、一音一音が説得力に満ちた演奏である。この696席の中規模ホールである、松本市音楽文化ホールだからこそ実現された名演であると言える。特に第二楽章後半からは、ホールの響きを完璧に味方につけ、霊感に満ちたと思わせる演奏である。

(私は、ヒラリーの真価を、客席数が2000席前後の大きなホールで味わう事は不可能だと思っている。バンバン大音量で鳴らすタイプの奏者ではないからだ。中小規模のホールでのリサイタルでこそ、最もヒラリーらしさを味わえるというのが、私の印象である)

後半のアブリルとコープランドは、少し鋭さを出してくるが、響きの豊かさを必ず伴わせる。もっとも、曲想上の問題でBWV1005を聴いた後だと、バッハの偉大さを感じさせてしまうのは、致し方ないところか。細川俊夫の 'Exstasis' 程の曲想の強さがないと、バッハに対抗する事は、なかなか難しいのかもしれない。

それでも、ピアノのコリー=スマイスとのコンビネーションは完璧だった。どのように客席に響くか、一音一音詳細に検討されているかのような、絶妙なバランスである。

アンコールは三曲あり、佐藤總明の「微風」、マーク=アントニー=ターネジの「ヒラリーのホーダウン」、マックス=リヒターの「慰撫」であった。マックス=リヒターで特に感じられる事であるが、同じ音符を刻むにしても、どうして一音一音が説得力を持つのかを考えさせられる演奏であった。