2025年2月2日日曜日

Bayerisches Staatsballett 'La Sylphide' (Pierre Lacotte nach Filippo Taglioni)

Bayerisches Staatsballett
La Sylphide (Pierre Lacotte nach Filippo Taglioni)
Thursday, 2nd January 2025
Bayerisches Staatsorchester, Musikalische Leitung: Myron Romanul
Nationaltheater, München, Deutschland

バイエルン州立バレエ
「ラ シルフィード」(Filippo Taglioni版 を復元した Pierre Lacotte版)
Nationaltheater(ドイツ連邦共和国ミュンヘン市)
バイエルン州立管弦楽団(バイエルン州立歌劇場管弦楽団)、指揮:Myron Romanul
2025年1月2日(木曜日)

ドイツ南部の都市ミュンヘンにあるバイエルン州立バレエは、2024年11月22日から2025年7月11日に掛けて「La Sylphide」を11公演上演する。そのうち9公演は2025年1月5日までに集中的に上演された。この公演は第8公演になる。

バイエルン州立バレエによるラコット版「ラ シルフィード」カンパニー初演は、2024年11月22日である。1972年1月1日テレビジョン初演から約53年を経過して、バイエルン州立バレエの演目となった。2022年5月に就任した Laurent Hilaire 芸術監督の意向が反映されていると思われる。舞台装置は Andrea Hajek の指揮によるバイエルン州立歌劇場工房により、バイエルン州立バレエのために制作された。衣装もバイエルン州立歌劇場により制作された。

この2025年1月2日公演の主要キャストは、
Die Sylphide: Maria Baranova
James: Jakob Feyferlik
Effie: Carollina Bastos
Madge: Alexey Dobikov
Gurn : Matteo Dilaghi
Effies Mutter : Séverine Ferrolier
である。シルフィード役 Maria Baranova はロールデビュー、ジェームズ・エフィ・グァーン・エフィ母の四役は2024年11月22日カンパニー初演初日キャストを充てている。
なお、公演前にダンサーの予備知識を得ずに臨んだ。

Sylphide: Maria Baranova
多幸感に溢れる存在感で観客を魅了した。ロールデビューであることは公演後に知ったが、以前から本役に何度も出演し熟達している印象で、およそロールデビューとは思えなかった。エフィと結婚するジェームズに悲嘆を伝える場面と、ジェームズに構ってもらえた後の嬉しさとの対比が強く明白であるは効果的で、音楽が眠いのにも関わらず、嬉しそうな踊りの強さに鮮烈な印象を与えた。超絶技巧をアピールする場面がないシルフィード役ではあるが、観客をウットリさせる見せ方のテクニックが素晴らしく、見得を切る場面が美しく、第二幕は天国にいる気持ちにさせられる。あれだけ可愛いエフィを捨てて、Maria Baranovaのシルフィードを追って森に向かったのは正解であった。ずっと見ていたいと思わせるシルフィードである。

James: Jakob Feyferlik
個人的には、24/25年末年始観劇旅行の中で最も素晴らしい男性ダンサーであった。この旅行最後のバレエ公演で、最も素晴らしい主役男性ダンサーで締めくくられたのは幸いである。着地が美しく、形が綺麗に決まり、高いテクニックがジェームズ役として理想的な形で体現された。カンパニー初演初日キャストに選抜されるのは当然と言えた。

Effie: Carollina Bastos
顔立ちは美女系であるが小柄であり、小柄カワイ子ちゃん役も似合う守備範囲の広さを感じる。テクニックに優れ、第一幕の見せ場を素晴らしく決め、演技も自然で、理想的なエフィ役であった。第一幕後半の、シルフィード-ジェームズ-エフィの三角関係のパドトロワも素晴らしい。こんな可愛らしいエフィからジェームズを略奪するのは困難だろうと思わせる(その辺りに説得力を持たせるのが、Pierre Lacotte の振り付けの巧みさであろう)。さすがは、カンパニー初演初日キャストである。

Madge: Alexey Dobikov
下位階級のダンサーであるが、このようなキャラクター役が得意なのか、素晴らしい演技力で期待を大きく上回った。Laurent Hilaire の抜擢が大当たりした。

他の主要六役も高い水準で魅了させられた。

再び個人的な話に戻るが、この公演は私の24/25年末年始観劇旅行の中で、もっとも感銘を受けた舞踊公演となった。主要六役のみならず、群舞に至るまで士気高くその技量を存分に観客に示せたからである。

Pierre Lacotte 版の La Sylphide は、音楽は全く助けにならない。三部作を作曲したチャイコフスキーや「明るい小川」を作曲したショスタコーヴィチはもちろんのこと、同時代の「ジゼル」を作曲した Adolphe Adam にも及ばない。その証左に La Sylphide の作曲家をソラで言えるバレエファンなど、二百人に一人くらいだろう。よって、観客に作用させる要素はダンサーの踊りだけとなる。また、 August Bournonville 版と全く同じストーリーでありながら実演時間も長いため、より踊りのみで観客を魅了させなければならない難しさがある。

バイエルン州立バレエの舞踊手は、主役から群舞に至るまで、それぞれの見せ場でその役割を高い水準で果たした。第一幕で、大柄な男性ダンサー8人が横一列になったユニゾンは良く揃い観客に圧を掛けていたし、第二幕では群舞のシルフィードたちが主役のシルフィードとともに一致団結して森の中の天国を形成した。結婚指輪を奪ったシルフィードを追って、エフィを見捨てて森の中にやって来たのは正解だったと思える空間を創り上げた。

同時期に、パリで Pierre Lacotte 作品を観た時に感じた、「題名役だけが素晴らしく頑張っている」状態(たまたま私が観劇したその一公演だけと信じたい)ではなく、主役、ソリスト、群舞に至るまで、高い完成度でこの La Sylphide の世界を表現しようとする士気が高い完成度となって結実したと言える。全員が素晴らしいバレエほど感銘を与えるものはない。

Laurent Hilaire が、ロシアによるウクライナ侵攻に抗議し、モスクワ音楽劇場(ダンチェンコ劇場)舞踊監督を辞任して間もなく、2022年5月にバイエルン州立バレエ芸術監督に就任して二年半が経過した。この二年半の時間を用いて、万全の体制でこの Pierre Lacotte 版 La Sylphide をプロデュースしたことが強く感じられた。Laurent Hilaire の知見は、バイエルン州立バレエのダンサーに的確に伝達されている。

「Pierre Lacotte 作品の本場はパリではありません。ミュンヘンです」と、公演直後に私はツイートした。世界的メガカンパニーでなくても、優秀な芸術監督、指導者、ダンサーと彼ら彼女らの高い士気があれば、世界第一級のバレエは実現できるのだ。

#BSBsylphide

2025年1月27日月曜日

Ballet de l’Opéra national du Capitole 'Magie Balanchine'

Ballet de l’Opéra national du Capitole
Magie Balanchine
Sunday, 29th December 2024
Orchestre national du Capitole, Direction musicale: Fayçal Karoui
Théâtre du Capitole, Toulouse, France

フランス国立キャピトル劇場バレエ団
「Magie Balanchine」
キャピトル劇場(フランス共和国トゥールーズ市)
フランス国立キャピトル管弦楽団、指揮:Fayçal Karoui
2024年12月29日(日曜日)

フランス南西部の都市トゥールーズにあるキャピトル劇場バレエ団は、2024年12月20日から31日に掛けて「Magie Balanchine」を8公演上演した。この公演は第7公演になる。
「Magie Balanchine」は三つのバランシン作品を上演するトリプルビルである。
「Theme and Variations」
「Tschaikovsky Pas de Deux」
「Who Cares?」

「Theme and Variations」は新国立劇場バレエ団で上演されてきた(Patricia Neary が振付指導者から引退し、今後上演できるかは不明だが?)。「Tschaikovsky Pas de Deux」は諸ガラ公演で頻繁に上演される。しかし、「Who Cares?」の日本での全編上演は、2003年K Ballet 、2004年 New York City Ballet のみである。日本にて20年以上に渡って全く上演されていない演目のToulouse での上演は貴重であり、大変意義深い。

振付指導者は、「Theme and Variations」、「Tschaikovsky Pas de Deux」は Ben Huys、「Who Cares?」は Diana White であった。日本にも来日している振付指導者である。

「Theme and Variations」の主演は Nina Queiroz, Ramiro Gómez Samón である。序盤 Nina は苦しい立ち上がりである。Ben Huys による「とにかくソフトにフェミニンに」踊るよう指導する方針も相乗して、音楽に遅れがちに始まり、固い。第8変奏では、Nina のサポートに必死で、Ninaと群舞6人(Théâtre du Capitol の舞台は狭く、群舞8人は厳しいと思われる)との間隔が揃わず、フォーメーションが乱れた。しかしながら、この後の Nina は奮闘し、第9変奏に於ける連発パドシャが鮮やかに決まり、その後の群舞との調和も良かった。デミソリストの階級と2021年入団の若手であることを踏まえれば「よく頑張った」と言える。次席ソリストと群舞は素晴らしく、主演に多少の難があってもカヴァーできる内容であった。
キャピトル劇場バレエ団は総勢35名の小規模カンパニーであり、プリンシパルとソリストを全部合わせても8人しかおらず、トリプルビルとなると、全ての演目にプリンシパルを投入するわけにはいかない。どれか一つの主演が将来期待できる若手デミソリストであることは止むを得ない。

「Tschaikovsky Pas de Deux」はNatalia de Froberville と Kleber Rebello の二人である。Natalia はさすがエトワール、甘やかに踊る箇所と切れ味鋭く踊る箇所との使い分けが決まり、強い印象を観客に与える。

休憩を挟んだ後半の 「Who Cares?」 が本日のメイン演目、プリンシパルやソリスト階級を惜しげなく投入している。George Gershwin の音楽に乗せ、ニューヨークの若者たちの青春群像劇の印象を与える演目である。ソリスト級4人と群舞10人によるダンサーの構成であるが、群舞にもデュオの見せ場が与えられている。よって、どのダンサーも優れていなければならない演目だ。

日本人/日系人と思わせる名前が3人あり、日本由来ダンサーが大活躍している。
デュオを与えられる見せ場では、 'S Wonderful で Hatuka Tonooka が、That Certain Feeling 2 で Minoru Kaneko が演じたが、様式だけでなく強い踊りで観客に圧を与えることに成功している。Minoru kaneko は男性群舞5人の筆頭格であり、真ん中で見事にリードしていた。

また、ソリストの Kayo Nakazato が最もテクニックを要し誤魔化しが効かない My One And Only のソロを任され、期待されたであろう堅実なテクニックで決めた。
当然のことながら日本由来以外のダンサーも素晴らしく、Marlen Fuerte Castro はプリンシパルらしく華のある演技で Fascinatin’ Rhythm のソロを始め、舞台を引っ張った。

最も特筆するべきは、全員が素晴らしいことである。「揃っている」云々の次元ではなく、一つの作品を作るに当たっての一体感や士気の高さが、この作品をフランスの地方劇場で花開かせた。この Toulouse の劇場で New York の街が現れ、華やかで懐かしさをも感じさせる青春群像劇が再現された。プリンシパル、ソリスト、群舞が一体となった舞台は強い。ファーストキャストで精鋭を集めた舞台であれば、地方の小規模バレエカンパニーでも高い水準の公演が可能であることを証明した。