2017年7月22日 土曜日
Saturday 22nd July 2017
愛知県芸術劇場コンサートホール (愛知県名古屋市)
Aichi Prefectural Art Theater Concert Hall (Nagoya, Japan)
曲目:
Wolfgang Amadeus Mozart: Ouverture ‘Don Giovanni’ KV527
Wolfgang Amadeus Mozart: Concerto per clarinetto e orchestra KV622
(休憩)
José Pablo Moncayo García: ‘Huapango’
Jesús Arturo Márquez Navarro: Danzón no 2
Alberto Evaristo Ginastera: Estancia (Quatro Danzas del Ballet) op.8a
clarinetto: Alessandro Carbonare
orchestra: Nagoya Philharmonic Orchestra(名古屋フィルハーモニー交響楽団)
direttore: Alondra de la Parra
名古屋フィルハーモニー交響楽団は、アレッサンドロ=カルボナーレをソリストに、アロンドラ=デ-ラ-パーラを指揮者に迎えて、2016年7月21日・22日に愛知県芸術劇場で、第448回定期演奏会を開催した。この評は、第二日目の公演に対してのものである。
今回のプログラムは、保守化した今シーズンのプログラムの中では例外的に良心的なもので、特に後半は、メヒコの作曲家モンカーヨ・マルケス、アルヘンティーナの作曲家ヒナステラを充て、中南米音楽に接する貴重な機会を齎している。メヒコの美人指揮者、アロンドラ=デ-ラ-パーラの意向も含まれているだろう。
管弦楽配置は、舞台下手側から、第一ヴァイオリン→第二ヴァイオリン→ヴァイオリン-チェロ→ヴィオラのモダン配置で、コントラバスはチェロの上手側につく。管楽パートは後方中央から上手側に掛けて、打楽器は最後方中央のティンパニの他は下手側の位置につく。
着席位置は一階正面後方わずかに下手側、客の入りは8割程であろうか、かなり観客数は多いと思われたが、チケット完売には至らなかった。観客の鑑賞態度については、きわめて良好だった。
「ドン-ジョバンニ」序曲の時点で、Alondra de la Parra の棒に名フィルがテンション高く反応する。熱量が高く面白い。
モーツァルトのクラリネット協奏曲は、カルボナーレのソロは見事ではあるが、中弱音を多用したために、ホールの大きさも相まって自己主張は抑えめとなる。むしろ、Alondra de la Parra 率いる管弦楽の方が、第一楽章後半部などで見せる熱量の高い演奏を見せ、カルボナーレとは対照的である点が興味深い。
(余談だが、2016年11月にカルボナーレはカメラータ-ザルツブルクと同じ曲で松本市音楽文化ホールにて共演していたが、その時はカルボナーレがかなりリードしているようにも思えた。ホール規模による印象の差なのか?「カメラータ」とフルオーケストラとの差なのか?)
カルボナーレのソリスト-アンコールは、チャーリー=パーカーの「チェロキー」にちなむ「クラリネット-ロギア」である。モーツァルトの演奏とは打って変わって、カルボナーレがその技巧を惜しみなく注ぎ込み、ホール全体によく響かせる演奏で、とても楽しい。まるで、このアンコールを吹くためにモーツァルトのソロを引き受けたのではないかと思えるほどである。中南米の曲目で固めた後半につなげるような、ヨーロッパからアメリカに飛んだ選曲も素晴らしい。
なお、その光景は、指揮台に座った Alondra de la Parra がスマホで動画撮影し、直後の休憩時に即instagramに投稿している。
後半は、いよいよお待ちかねの中南米音楽である。
まずは、Moncayo ‘Huapango’ モンカーヨの「ウアパンゴ」だ。曲の進行とともに管弦楽が噛み合い始め、管楽弱音ソロで決める場面もキッチリ決まる。私の個人的なポイントは、何と言っても、ヴァイオリンの強烈なウネリを掛けた強奏で、その絶妙かつ強いニュアンスを効かせた強い響きは効果的だ。この場面を愛知県芸術劇場コンサートホールの響きで聴けたのは幸せである。名フィル始まって以来のヴァイオリンの強烈な響きではないだろうか?その旋律を追いかけるトランペットも素晴らしい。
次は、Márquez ‘Danzón’ no 2 マルケスの「ダンソン」第2番である。メヒコの太陽の強烈さは影も深い、印象を持つ。
最後はGinastera: Estancia ヒナステラのバレエ音楽「エスタンシア」組曲版である。どうしても、Damza Final (Malambo) の強烈な旋律が全てを持っていってしまう。名フィルの総力を挙げ、愛知県芸術劇場コンサートホールの響きを知り尽くし、現代音楽で鍛え上げられた弦管打全てが絡み合う名演である。牛の鳴き声を表現しているかと思われる管楽の挿入も見事で、題名の通り、アルヘンティーナの農場を思わせる光景だ。打楽の二連音のアクセントも強めに入る好みの展開である。まさに、愛知県芸術劇場コンサートホール改修工事前の、お別れにふさわしい幕切れだ。シャイな名古屋の観客がスタオベやり始める展開である。
アンコールは、マランボの繰り返しである。これが前代未聞のアンコールとなる。Alondra de la Parra から観客に対して指示が出る。立ち上がろう!手拍子しよう!体を左右に振って踊ろう!(管弦楽も体を左右に振りだしている)しまいには、打楽二連音のアクセントの箇所でジャンプ指令まで出た。まあ、手拍子レベルならあり得る展開であるが、ジャンプまでさせるとはねえ。アロンドラも指揮台の上で楽し気にジャンプしている。日本のクラシック音楽演奏会史に残る伝説的なアンコールであった。
Alondra de la Parra は、管弦楽を情熱的にさせる音楽面での確かな充実ぶりはもちろんのこと、観客を楽しませるエンターテイメントの面でも素晴らしい才覚を発揮した。ソリスト-アンコール中の動画撮影と即時instagram 投稿、アンコールでの観客関与、サラリと前代未聞の仕掛けを実現させていく。メヒコ美女だからこそ、日本の演奏会のスタイルを変えていけるのかもしれない。
Alondra de la Parra は、実はバレエ好きで、名古屋滞在中に English National Ballet の’Coppélia’ 公演を観劇していたりする。instagramを覗くと、Alondra自身がバーレッスンをしている写真もある。この伝説的なアンコールには、彼女のバレエとの関わりをも背景にあるように思える。(余談ではあるが、新国立劇場バレエ団に彼女を指揮者として呼んで、Ginastera の ‘Estancia’ 全幕を上演したら面白いだろなと、頭に浮かんでくる。)
愛知県芸術劇場コンサートホールは、2017年8月から一年以上にわたって改修工事に入る。この第448回定期演奏会は、名フィルにとって改修工事前の最後の演奏会であった。愛知県芸術劇場コンサートホールの響きを十全に活かした響き、革新的な演奏会の在り方の提起、メヒコからの旋風がこの美しいホールに吹き込まれた、画期的な演奏会となった。
2017年7月22日土曜日
2017年7月21日金曜日
Orchestra Ensemble Kanazawa, the 392nd Subscription Concert, review 第392回 オーケストラ-アンサンブル-金沢 定期演奏会 評
2017年7月21日 金曜日
Friday 21st July 2017
松本市音楽文化ホール (長野県松本市)
The Harmony Hall (Matsumoto Municipal Concert Hall) (Matsumoto, Japan)
曲目:
Organ Inprovisation by Thierry Escaich
Franz Peter Schubert: Sinfonia n.7 D759 ‘Incompiuta’
Charles Camille Saint-Saëns: Concerto per violoncello e orchestra n.1 op.33
(休憩)
Thierry Escaich: Concerto per organo e orchestra n.3 'Quatre Visages du Temps' (「時の四つの顔」)
violoncello: Ľudovít Kanta
organo: Thierry Escaich
orchestra: Orchestra Ensemble Kanazawa (OEK)(オーケストラ-アンサンブル-金沢)
direttore: 井上道義 / Inoue Michiyoshi
オーケストラ-アンサンブル-金沢は、オルガンにティエリー=エスケシュを迎え、指揮は音楽監督の井上道義、チェロは首席奏者ルドヴィート=カンタが担当し、2017年7月18日から23日までに、石川県立音楽堂(金沢市)・那須野が原ハーモニーホール(栃木県大田原市)・松本市音楽文化ホール・ミューザ川崎シンフォニーホールで、第392回定期演奏会を開催する。
この評は、2017年7月21日、第三回目松本市音楽文化ホールでの公演に対するものである。
管弦楽配置は、舞台下手側から、第一ヴァイオリン→ヴィオラ→ヴァイオリン-チェロ→第二ヴァイオリンの左右対抗配置で、コントラバスはチェロの後方につく。木管パートは後方中央、ホルンは後方下手側、他の金管は後方上手、ティンパニは後方上手、他のパーカッションは両側端の位置につく。
着席位置は一階正面後方わずかに上手側、客の入りは四割程であろうか、空席が目立った。観客の鑑賞態度は、極めて素晴らしい。
演奏について述べる。
シューベルトの「未完成」は、低弦を中央後方に置き、通常弦楽の上手側となる位置に管楽を置く変態的な配置であったが、意味があったのかは疑問である。響きは豊かだが、構成は眠くなる感じである。
サン-サーンスのチェロ協奏曲は素晴らしい。チェロと管弦楽との一体感が、曲の進行とともに増してくる。696席の松本市音楽文化ホールならではのチェロの響きで、チェロのソロがこれだけ鳴るホールも少ない。カンタのチェロが情感を深くした第二楽章と思える箇所の、チェロと管弦楽との掛け合いは、同じ方向性を向いた、家族のような一体感を感じさせるものである。
エスケシュのオルガン協奏曲は、オルガンと管弦楽とがブレンドされ、誰が鳴らしているのか分からないほどの見事な演奏である。第二楽章の弦楽とオルガンとの一体感を感じさせる響きに惹きつけられる。一方で、両翼に配置した打楽は的確なアクセントを与える。楽器の構成がワールドワイドで楽しい。
サン-サーンスのチェロ協奏曲と、エスケシュの世界初演されたばかり(松本が第三公演!)のオルガン協奏曲を味わう事ができた、充実した演奏会であった。
#oekjp
Friday 21st July 2017
松本市音楽文化ホール (長野県松本市)
The Harmony Hall (Matsumoto Municipal Concert Hall) (Matsumoto, Japan)
曲目:
Organ Inprovisation by Thierry Escaich
Franz Peter Schubert: Sinfonia n.7 D759 ‘Incompiuta’
Charles Camille Saint-Saëns: Concerto per violoncello e orchestra n.1 op.33
(休憩)
Thierry Escaich: Concerto per organo e orchestra n.3 'Quatre Visages du Temps' (「時の四つの顔」)
violoncello: Ľudovít Kanta
organo: Thierry Escaich
orchestra: Orchestra Ensemble Kanazawa (OEK)(オーケストラ-アンサンブル-金沢)
direttore: 井上道義 / Inoue Michiyoshi
オーケストラ-アンサンブル-金沢は、オルガンにティエリー=エスケシュを迎え、指揮は音楽監督の井上道義、チェロは首席奏者ルドヴィート=カンタが担当し、2017年7月18日から23日までに、石川県立音楽堂(金沢市)・那須野が原ハーモニーホール(栃木県大田原市)・松本市音楽文化ホール・ミューザ川崎シンフォニーホールで、第392回定期演奏会を開催する。
この評は、2017年7月21日、第三回目松本市音楽文化ホールでの公演に対するものである。
管弦楽配置は、舞台下手側から、第一ヴァイオリン→ヴィオラ→ヴァイオリン-チェロ→第二ヴァイオリンの左右対抗配置で、コントラバスはチェロの後方につく。木管パートは後方中央、ホルンは後方下手側、他の金管は後方上手、ティンパニは後方上手、他のパーカッションは両側端の位置につく。
着席位置は一階正面後方わずかに上手側、客の入りは四割程であろうか、空席が目立った。観客の鑑賞態度は、極めて素晴らしい。
演奏について述べる。
シューベルトの「未完成」は、低弦を中央後方に置き、通常弦楽の上手側となる位置に管楽を置く変態的な配置であったが、意味があったのかは疑問である。響きは豊かだが、構成は眠くなる感じである。
サン-サーンスのチェロ協奏曲は素晴らしい。チェロと管弦楽との一体感が、曲の進行とともに増してくる。696席の松本市音楽文化ホールならではのチェロの響きで、チェロのソロがこれだけ鳴るホールも少ない。カンタのチェロが情感を深くした第二楽章と思える箇所の、チェロと管弦楽との掛け合いは、同じ方向性を向いた、家族のような一体感を感じさせるものである。
エスケシュのオルガン協奏曲は、オルガンと管弦楽とがブレンドされ、誰が鳴らしているのか分からないほどの見事な演奏である。第二楽章の弦楽とオルガンとの一体感を感じさせる響きに惹きつけられる。一方で、両翼に配置した打楽は的確なアクセントを与える。楽器の構成がワールドワイドで楽しい。
サン-サーンスのチェロ協奏曲と、エスケシュの世界初演されたばかり(松本が第三公演!)のオルガン協奏曲を味わう事ができた、充実した演奏会であった。
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