2017年10月28日 土曜日
Saturday 28th October 2017
滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール (滋賀県大津市)
Biwako Hall Center for Performing Arts, Shiga (Otsu, Japan)
演目:
Vincenzo Bellini: Opera ‘Norma’
ヴィンチェンツォ=ベッリーニ 歌劇「ノルマ」
Norma: Mariella Devia
Adalgisa: Laura Polverelli
Pollione: Ștefan Pop
Oroveso: 伊藤貴之 / Ito Takayuki
Clotilde: 松浦麗 / Matsuura Rei
Flavio: 二塚直紀 / Nizuka Naoki
Coro: Biwako Hall Vocal Ensemble, Fujiwara Opera Chorus Group (合唱:びわ湖ホール声楽アンサンブル、藤原歌劇団合唱部)
Production: 粟國淳/ Aguni Jun
orchestra: Tokyo Mitaka Philharmonia
maestro del Coro: 須藤桂司 / Sudo Keiji
direttore: 沼尻竜典 / Numajiri Ryusuke
滋賀県立芸術劇場びわ湖ホールは、2017年10月28日に、沼尻竜典の指揮によるヴィンチェンツォ=ベッリーニ作、歌劇「ノルマ」を1公演開催した。この公演は、滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール、日生劇場、川崎市スポーツ・文化総合センター、藤原歌劇団、東京フィルハーモニー交響楽団による共同制作によるもので、既に日生劇場で3公演、川崎市スポーツ・文化総合センターで1公演、上演されている。
本びわ湖公演・川崎公演には東京フィルハーモニー交響楽団は出演せず、指揮者である沼尻竜典の呼びかけにより設立されたトウキョウ-ミタカ-フィルハーモニアによる管弦楽である。
なお、この公演を最後に Mariella Devia は日本から引退する。
着席位置は一階正面前方やや上手側である。観客の鑑賞態度は、概ね極めて良好であった。
総じて、冒頭部のみ固さが見られたが、第一幕中盤以降は、盤石の出来である。
Norma役 Mariella Devia は、充実した全盛期と同様とまでは行かないのだろうが、69歳とは思えぬ驚異的な歌唱を見せた。ヴィブラートは終始綺麗で、声質は清純さを保ち、乙女の役もお姫様の役も全く違和感がない。喉が温まれば、びわ湖ホールの巨大さに十二分に立ち向かえる声量を持つ。貫禄を見せつけ、嫉妬に狂う場面でも、品のある様式美を保っている。年齢故に、思い通りに100%やれたかどうかは別として、音符の一つ一つ、どのようにニュアンスを掛けるか、深く吟味されている。そのニュアンスは、随所で涙腺を潤すもので、舞台がボヤけて見えるほどだ。
私にとっては、最初で最後の Mariella Devia 、日本からの引退が信じられない。
Adalgisa役 Laura Polverelli は、充実した完成度で Mariella Devia に寄り添った。Pollione役の Ștefan Pop は伸びやかな声量で、軽薄さと Norma への罪の意識を的確に表現した。外国人ソリストとしての責務は、三人とも見事に果たしたと言える。
日本人ソリストたち、Oroveso: 伊藤貴之、Clotilde: 松浦麗、Flavio: 二塚直紀、いずれも素晴らしい。外国人ソリストに見事に調和する響きで魅了される。ソリスト全員素晴らしく、この Norma を卓越した公演とするのに貢献した。
また、びわ湖ホール声楽アンサンブル・藤原歌劇団合唱部による合唱は実に綺麗な響きで、日本人の合唱の実力の高さを示した。
沼尻竜典率いるトウキョウ-ミタカ-シンフォニアの管弦楽は、単に鳴らすことだけを考えたものではない、歌い手との響きを綿密に考慮した形跡を強く感じる見事なものである。歌と管弦楽とが、素晴らしく噛み合っており、ソリスト頼りでもない、歌い手頼りでもない、全体的なアンサンブルが見事に構成されたものであった。
演出は、舞台転換がないものでシンプルではあるが、回り舞台を効果的に用い、堅実に Norma の物語の基盤を構築した。
総じて、日本で実現される歌劇公演の中で、極めて質の高い公演であった。世界的なメジャー歌劇場のプロダクションに決して負けていない。Mariella Devia の日本最後の公演を見事に飾るものであった。