2024年5月29日水曜日

Korean National Ballet ‘The Little Mermaid’ 韓国国立バレエ団 ノイマイヤー版「人魚姫」 2024年5月 観劇記録

2024年5月1日(水)から5日(日)にかけて、ノイマイヤー版「人魚姫」が韓国国立バレエ団により上演された。上演会場は、Seoul Arts Center 歌劇場である。一日1公演、計5公演の上演であった。

当方が観劇したのは、5月3日(金)公演である。以下、その記録である。

1.概観

この公演はダブルキャストであり、私が観劇した2024年5月3日(金)公演はファーストキャストによる上演であった。

会場は、Seoul Arts Center であり、三階席・四階席は閉鎖して上演された。三階席・四階席は、当初から発売されていないようであった。

ダンサーはロシアバレエの流儀のカンパニーであるが、元 Stuttgarter Ballett (ドイツのカンパニーである点に注目)プリンシパルである Kang Suejin 芸術監督による招聘があってか、少なくとも主要ソリストについては、ノイマイヤーの流儀を吸収しているように見える。

主演も含めキャストが発表されたのは、記者会見があった4月23日であり、初日上演の8日前であった。ジョン ノイマイヤー自身がソウルを訪れ、4月23日の記者会見に臨み、公演に関わった。


2.実演・振り付け

「人魚姫」役 Cho Yeonjae は薄幸の人形姫を見事に演じた。前半は、脚の長さよりも長い衣装を介して踊るなど、独特の難しさがあるが、これを見事にクリアし、リフトされるのがとても上手く、前半の人魚の幸福感が表出される。他方、人間になってからの痛々しさの表現も素晴らしく、人魚との落差が明瞭であった。

「プリンス」役 Lee Jaewoo は完璧なサポートである。ノイマイヤー独自の非定型リフトを完璧にこなし、Cho Yeonjae を美しく支えつつ、尊大なプリンスの役柄も表出した。「詩人」役 Byun Seongwan は人魚姫に寄り添い、「海の魔女」役 Kwak Donghyeon は見事な技巧で、「プリンセス」役 Kwak Hwakyung は明るいキャラクターで、いずれも的確に役を表現した。

少なくとも主要キャストについては、ノイマイヤーによる吟味が極めて有効に働いた。人魚姫はいずれもソリスト以下の階級から抜擢されたが、懐妊故に出演できなかったプリンシパル Park Seulki の不在を見事にカヴァーした。キャスティングは、技術的必要条件を満たした中から、キャラクターに合致したダンサーが選べた印象を持ち、カンパニーソリスト陣の基礎力の高さを伺えた。ノイマイヤーの他に、Lloyd Riggins と Niurka Moredo の二人が振付指導者として参画した。

ノイマイヤー版の舞台装置は見事で、プロセニアム上方に船の模型を走らせるが、煙を吐いたり、沈没した後は上下逆さまにしたりと、小道具まで芸が細かい。振り付けは、人間になった後の人魚姫と詩人とを、プリンスへの愛が報われない意味で同一性を持たせたもので、筋書きの完成度が高く、その上で、独自の非定型リフトを用いた振り付けは天才的である。前半の人魚時代の人魚姫は、この非定型リフトにより見事に人魚として舞台上に存在する。


3.指揮・管弦楽

指揮は Simon Hewett である。韓国国立交響楽団の演奏は完成度が高い(韓国国立バレエ団の強みは、管弦楽のレベルの高さであろう)。ヴァイオリンソロはAnton Barakhovsky、Theremin は Lydia Kavina による演奏であった。